解説
A9V1の10番目のマップである「混迷する交通都市」は40編成まで、アップデートパッチで追加された「混迷する交通都市EX」では100編成までの列車が使えるが、40編成でじゅうぶん遊べるようにできている。ゲームを進めながら乗客数を観察するうち、ホームの長さも6両でじゅうぶんで、無理に長くする必要はないとわかってくる。A9V2以降の「スケール1:1モード」のマップに慣れると「2:1モード」にはかなり違和感がある(流行の目玉焼きはお嫌いですかレゴのデュプロのようだ)が、A9V1の発売当初はみながこれで遊んでいたのである。ワープロの4倍角マップに対して列車が巨大で、ちょっと走らせただけであっという間に着いてしまう。欲張って細かいもの(安全側線やデルタ線や立体交差など)をあれこれ造ろうとするよりは、基本的なゲームシステムを完全に理解したと言えるようになるのを目指すのがよいだろう。なお、スケールが異なると列車の収支も異なるようで、このサイトのほかのページでの説明が必ずしもそのままあてはまるとは限らないことに留意してほしい。
公式ガイドブックでは「区画整理」としか書かれていないが、「混迷する交通都市」の「交通」は「道路」を指す。逆にいえば鉄道には特に問題ないので、初期配置の鉄道施設は撤去せず活用しよう。これを「既存ストックの有効活用」という。国土交通省や鉄道・運輸機構の資料を見ると「相当程度拡充してきた都市鉄道ネットワーク(既存ストック)」を「使い方の工夫」で「効率的に沿線地域の通勤・通学輸送の確保や都市機能の向上・活性化を図る」といった文言がある。平たく言えばケチ、いまから莫大な費用はかけずに、汽車や貨物列車が素通りしていた地域にローカルの輸送サービスを提供しようということだ。都心の職場や学校からさほど遠くないにもかかわらず局地的に通勤・通学が不便だったエリアからも根こそぎ従業員や学生を搾り取る集めたいという産業界の要請(人材像)で国際競争力なのだ。焼け野原に居座って得た土地は末代まで通勤手当は安ければ安いほどよい。本作をプレーするあなたは学生かもしれないが、本作をプレーするからには相当の上から目線に立つ必要がある。
本作で列車の収支に直結しているのが、列車の発駅から着駅までの直線距離と線路の長さ(道のり)である。距離も長さも見た目ではわからないので、座標(できていますか中1数学)を調べて計算で求めよう。A列車で行こう9では「P+Bキー押下」で座標を表示できる。「P+Bキー押下」とは「P」キーを押しながら「B」キーを押してすぐ離すことである。「Ctrl+C」と同じで、「Ctrl」キーを押すのと同じ感覚で「P」のキーを押しながら2つ目のキーを押す。キーボードによっては同時押しできるキーが限られている製品もあるが、一般的なキーボードであれば「P+Bキー押下」に対応していないということはまずないだろう。ふじこタイプライターに由来するQWERTY配列は左右の手で英文を高速に入力できるよう、新聞記事のような文章で使われる単語の頻度に基づき工夫された配列である。現代のOSでは、意図しない同時押しになっても入力が正しく完了するよう実装されている。A列車で行こう9はキーボードのタッチタイピングとマウスのドラッグアンドドロップができていない者が手を出してよいゲームではない。
座標を調べたい地点にマウスのカーソルをあてると、その地点の座標が表示される。駅の座標を調べるには、どの地点にカーソルをあてればよいか迷うが、駅をクリックすると駅の中心を指す矢印が表示される。この矢印が指している地点にマウスのカーソルをあてればよいだろう。駅-000の座標は「3297,5453,21」と読み取れる。カンマで区切られた数字は、1番目がx座標(東-西)、2番目がy座標(北-南)、3番目がz座標(高さ)だ。コンピューターで使われる座標では画面の左上を原点にする。本作でもy座標は北がゼロだ。同様にして、駅-001の座標は「3534,3818,21」、駅-002の座標は「5439,4295,21」、駅-003の座標は「3336,1771,01」とわかる。A列車で行こう9では線路の厚みが1mあるようだ。なお、乗客は駅の影響範囲(緑色の円)の内側にある建物からしか集められない。円の大きさ(意外なほどの小ささ)を必ず確かめて、見た目だけで乗客数が多そうと思ってしまわないようにしたい。どの駅の円にも含まれない建物のほうが多くなってしまうと駅の乗客は減ってしまうので要注意だ。
座標がわかれば距離を計算で求めることができる。2点間の距離の公式(できていますか中3数学)を使って、駅-000と、両隣の駅との直線距離を求めてみよう。なお、z座標(高さ)は考えない。
駅-000と駅-001の直線距離 駅-000の座標 3297 5453 駅-001の座標 3534 3818 計算 1,652.087770065501090174
駅-000と駅-002の直線距離 駅-000の座標 3297 5453 駅-002の座標 5439 4295 計算 2,434.980082054060663154
出前迅速四捨五入して、駅-000と駅-001の直線距離は「1652」、駅-000と駅-002の直線距離は「2435」とする。同様にして、駅-001と駅-003の直線距離は「2057」と出る。
線路の長さ(道のり)は、線路が曲がる地点の座標を調べ、直線の区間ごとに長さを求める。ここでの目的は迂回率を小数第一位まで求めることだけなので、おおよその長さがわかればじゅうぶんだ。「NMPC-L64を用いた作図」で表示された数字を使う。線路の長さ(道のり)は、駅-003から駅-001までが「2271」、駅-001から駅-000までが「2026」、駅-000から駅-002までが「2783」という数字になった。なお、おおよその長さがわかればじゅうぶんとはいえ目分量(目測)ではいけない。言葉だけで「長い」「短い」「近い」「遠い」などと言うのはだめだ。モニター(液晶画面)に定規をあてて測る方法や、トレーシングペーパーでなぞる方法、糸を使って測る方法など、とにかく目分量ではない方法で距離や長さを測って数字を求めてほしい。本作の線路は22.5度ごとにしか曲げられないので、測り方が雑でもそれなりに正確な(目的に対してじゅうぶんな精度の)数字が出るだろう。初期の伊能忠敬は実際に歩いて歩幅で距離を測っていたともいわれるが、実際に歩かずに角度を使って計算する測量の歴史はもっと古い。
区間 直線距離 線路の長さ 迂回率 駅-003から駅-001まで 2057 2271 1.1 駅-001から駅-000まで 1652 2026 1.2 駅-000から駅-002まで 2435 2783 1.1
「混迷する交通都市」では、各駅の間を単純に往復する列車として「205系」が初期配置されている。本作の「205系」は、本作でいう列車タイプ「通勤型」で、直線距離が2kmまでの運行に適する。駅-001から駅-000までの区間に「通勤型」は最適だ。駅-003から駅-001までの区間では線路の長さが2kmを超えるため、やや不利である。駅-000から駅-002までの区間は直線距離で2kmを超えるので「通勤型」は適していない。ここで、駅-003から駅-000までの急行運転(駅-001を通過)や、駅-003から駅-002まで途中無停車の運転をすると、どのような迂回率になるだろうか。なお、迂回率の計算式には政策の検討に使われることがある「直線距離と道のりの比」を用いる。この値は1以上の値をとる。土木や林業などの専門分野で使われる0以上の値をとる計算式による迂回率とは異なることに注意。政策はわかりやすく説明できないといけないので、わかりやすい指標を使って検討するものである。落書無用ゼロをかけたらゼロになってしまうので1以上の値をとる値を使うことには実用性と合理性がある。
区間 直線距離 線路の長さ 迂回率 駅-003から駅-000まで 3682 4297 1.2 駅-001から駅-002まで 1963 4087 2.1 駅-003から駅-002まで 3285 7080 2.2
駅-001から駅-002までの区間には初期配置の列車が直通で走っているが、これをそのまま快速にしようとすると迂回率が高すぎることがわかる。公式ガイドブックでは「なぜかU字型で」としたあと「環状化しよう」としているが、この区間の線形には何の優位性もない。本作では乗客が目的地を目指して乗り換えるといった挙動は未実装だ。駅-001から乗った客を駅-002まで運ぶ必要などない。もっといえば駅-002と駅-000がつながっている必要もない。この区間については初期配置の線路は見なかったことにしようなかったことにして、駅-002を通りにょろーん南北に直進する新しい路線を考えてもまったく問題ない。一方、駅-003から駅-000までの迂回率は良好である。交通安全運動で電車の下敷き道路と鉄道では路線網の作り方が異なるが迂回率の考え方は共通だ。直線距離が3km以上の区間では列車タイプ「通勤型」は完全に不利となり、代わって列車タイプ「高速通勤型」が適する。駅-000から駅-002までの区間も「高速通勤型」で大丈夫だろう。「205系」を「223系2000番代」や「E233系」に置き換えよう。
公式ガイドブックでは「川の向こうへ」として座標「2299,7927,28」の資材置場付近に駅-007を新設し、既設の駅-000と結んでいる。A列車で行こう9のコンテナを積み上げた高さは8mであることがわかる。この場合、駅-000と駅-007の直線距離は「2668」となり、列車タイプ「高速通勤型」が適する。中間地点は河川敷だから途中駅は造れない。駅-007から南の隣町(マップ外)への最短のルートとなる座標「2299,10240」で接続するなら、駅-007と南の隣町の直線距離は「2313」で、この区間でも「高速通勤型」が適する。さらに駅-002まで直通してもよいし、南の隣町から駅-000まで無停車でもよい。適切な距離で「高速通勤型」を使えば列車の収支は実に簡単に好転するが、だからといってすべての駅間距離を2km以上にしようというものでもない。「高速通勤型」は駅-001を通過させたいが、駅-001に停車させる列車も必要だ。公式ガイドブックでは駅-000と駅-002の中間地点に駅-004を新設している。乗降客数が減った駅の周辺は衰退する。列車タイプ「通勤型」を適切に組合せて各駅の乗降客数を確保しよう。
公式ガイドブックの図では駅-003付近に駅-008を増やしてあるが本文での説明がなく意図が不明だ。駅-003からは北の隣町と西の隣町への接続を考えよう。駅-003だけでなく路線全体の線形を見て、より上位の列車タイプ「特急列車」が適する距離のルートをつくろう。駅-003の座標は「3336,1771」だから、駅-003と西の隣町の直線距離は「3336」、駅-003と北の隣町の直線距離は「1771」だ。駅の向きや地形に合わせて線路を曲げる必要があるが、迂回率が1.2に収まるように線路を敷設しよう。駅-003から西の隣町への区間には「高速通勤型」、北の隣町への区間には「通勤型」が適する。駅-003を通過させるなら、北の隣町から駅-000まで無停車の「特急列車」が成り立つ。隣町と直通させる列車は直線的なルートで走らせたい。駅-003で大きく曲がるルートとなる西の隣町への直通はやめておこう。駅-000の座標は「3297,5453」だから、途中無停車の列車を北の隣町へ走らせると「5453」という直線距離で列車の収入が計算される。「283系」や「E257系500番代」を使い、定員×200の人口を目指そう。
「混迷する交通都市」のマップで、初期配置の線路は駅ごとに分断され、区間ごとに封じ込められた列車がダイヤ設定もポイント分岐設定もなしで単純に往復している。これは、列車の運行の全体像やダイヤ設定の一覧が見られる機能(「A列車で行こう7」にあった別売りの「ダイヤコンストラクション」にあたるもの)が本作にはないためだろう。もし「混迷する交通都市」に最初から凝った路線網と凝った列車が設定されていたとしても、初見のプレーヤーには何が何だかわからない(「何じゃこれ」な)状態になってしまう。「混迷する交通都市」のマップは、これはこれで何が何だかわからない(「何じゃこれ」な)状態ではあるが、もっとわかりにくい状態になるのを避けた結果がこれだとわかってくる。「混迷する交通都市」の路線網は明らかに工事中。ここで紹介した距離を調べる方法を駆使して、適切な距離に適切な列車タイプの車両を配置して、路線網を築いていってほしい。なお、フリーの統計解析環境「R」を使えば座標のリストを渡すだけで距離行列が一発で求まるので、ぜひ使ってみてほしい。