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小一時間で初心者卒業。大人のA列車。ゲームならではのデフォルメを楽しむ。(最終更新:2024年10月10日)


ランドマークとは

「A列車で行こう9」には、ゲーム内でプレーヤーが建設できる「ランドマーク」という分類の建物があります。収録する建物を選び取るセンスのよしあしや3Dモデルの出来不出来という話とは別次元の問題として、「A列車で行こう9」の「ランドマーク」の実装はシムシティをはじめとする海外製ゲームの猿真似の域を出ないもので、「A列車で行こう9」というゲームを最後の最後ですべて台無しにしてしまうものと言わざるを得ません。あなたがマップコンストラクションや「創作ゲーム」の制作に取り組むときは、安易に「ランドマーク」の中から何か1つを選んでマップのテーマにしてしまうといったことのないようにしていただきたいと強く思います。


「日本ならではの」v.s.「世界の有名建築」

「A列車で行こう9」に登場する建物のうち「ランドマーク」という分類のものを見ると、県庁舎や国会議事堂など都市や国の中心を(直接に)象徴する建物が含まれておらず、ゲームシステムとの関連が非常に弱いことにお気づきになるでしょう。シムシティをはじめとする海外製ゲームでの「ランドマーク」は、黒い森もしくは砂漠自力で開拓してゲームの中でじぶんがつくる都市が、どのくらい虚勢を張る堂々とした構えであるのかをまたはという色や星の数などで記号的に表現するアイテムになっています。その建物をゲームに登場させることに、ゲーム上の強い意味があるわけです。

ゲーム「A列車で行こう」シリーズに外国の建物が登場するのは今回が初めてではありません。「A列車で行こう5」(A5)では「凱旋門」と「エッフェル塔」が『固定建築物』という謎のラベルで登場していました。特定のマップ(ゲームの「ステージ」)に最初から建っていてプレーヤーが撤去することはできず、プレーヤーが新しく建てることもできないという実装だったようで、『固定建築物』という呼びかたはRPGのマップでいえば通行できない岩山、「ぷよぷよ」でいえば「おじゃまぷよ」のように、プレーヤーが線路を通すときに避ける必要のあるものという意味だったようです。なお、奈良市にある世界遺産「平城宮跡」には近鉄奈良線が通っています。

「A列車で行こう9」では、そのような意味づけが希薄なまま「向こうのゲームにあるランドマークみたいなのもほしいよね」「ないよりはあったほうが…」といった程度の意識で安直に実装されてしまっているという印象が拭えません。このことは、実物が巨大な建造物であっても「A列車で行こう9」の中ではどれもこれも同じくらいの大きさにされてしまっていて大きさのメリハリがないことや、特定の建物に固有の効果はなく「産業構成比」の数字が動くだけといった淡白な仕様に通じています。あくまで「A列車で行こう9」の建物を実装する窮屈な枠組みの中でしかバリエーションを考えていない状態に留まっています。

「A列車で行こう9」では、「ビッグ・ベン」「コロッセオ」「ロンドン塔」「サグラダ・ファミリア」は実名で登場させる一方、五稜郭を勝手に『星稜郭』という名前に変えて収録していて一貫性がありません。歴史的な建造物や遺跡などについては、名前も含めて学習の題材ですから、名前をぼかす必要はないのです。公的な登録や認証がなされているものについては、むしろ実名で紹介する必要があるという考え方もあります。あるいは、ゲームの中では「歴史的建造物A」「歴史的建造物B」といった建物名にするという方法もある(※名前を伏せて「これはなんでしょう?」というクイズにもできる)にもかかわらず、わざわざ『星稜郭』という名前に変えてしまうのは行き過ぎたラフプレーと言わざるを得ません。

ゲームを通してケヴィン・リンチの「都市のイメージ」についての学習活動を展開したいとき、ゲーム内に「ランドマーク」というラベルのメニューやアイテムがあるのでは用語が紛らわしくなってしまいます。建物や都市の歴史を胸アツで探訪して『映え』物語として楽しむのでなく、現在に視点を置いて実際的な機能に着目して客観視するケヴィン・リンチの文脈でいえば、ありふれた建物でも、そのありようによって、それがランドマークに『なる』のです。なお、このように『時制』を正確に述べながら考えていくことは探究学習の成立の大前提になる技能で、高等学校以上の校種での外国語の学習と歩調を合わせて進めていくものです。そこまで複雑な文法が必要となる文章上のシーンや具体的なニーズが見えないまま単に文法を習わされるばかりでは苦痛でしかないでしょう。政治・経済のニュースや環境問題の白書ばかりでなく、ケヴィン・リンチの「都市のイメージ」くらいの身近なテーマのものを英語で読むという副教材があるといいですね。

サグラダ・ファミリアとは

欧州(ヨーロッパ)の都市における「塔」を有する建造物(教会時計塔や市庁舎など)は、(客観的に見て)ランドマークであるかという以前に、(主観的な)建造の意図として、都市の中心を示すシンボル(象徴)です。「ランドマーク」と「シンボル」の違いをしっかり弁別しましょう。これは辞書をちょっと引くだけで簡単にわかるので、ぜひ辞書を引いてみてください。

ランドマークとシンボルの違い
ランドマーク場所を特定するのに役立つ目印
シンボル不可視のものを代表する象徴

じぶんで「定番」「決定版」と自称する「A列車で行こう9」というゲームもさることながらじぶんから建物名として「ランドマーク」を自称する建物に至っては、おこがましいにもほどがあると思われるでしょうが、その建物を勝手に「ARタワー」という名前にして「本社ビル」というカテゴリーに入れてみせる「A列車で行こう9」は、さらにその上をゆくおこがましさであると断言できると思います。実在の建物には所有者がいます。なんとなくそういうふうの建物ということで名前をぼかしてゲームに登場させるところまではよいのですが、勝手に「本社ビル」という「所有」を示す名前のカテゴリーに入れてしまうのは、他人の私有地に勝手に「ポケストップ」を設定することにも匹敵するゼンリンの住宅地図の上で勝手に『縄張り』の線引きをするかのような、現実の所有者(や在勤・在学・在住者)を無視したとんでもない扱いなのです。「A列車で行こう9」に「本社ビル」という概念がほしいとすれば、それは「本社ビル」という名前のカテゴリーを用意するということではなく、ゲーム内でいろいろな建物が建ったり建てることができたりする中から、どれでも好きな建物を、そのときの「本社」として購入したり借り上げたりするという現実的な表現になっているべきだと考えることもできたはず。長らく「私の鉛筆はアップルです」式の文章ばかり暗唱させられてきた弊害は、ここまで深刻なのです。

※ゲームの用語だけでいえば、「ランドマークという名の『駒』」があるのでなく「ランドマークという名の『役』」をプレーヤーがじぶんでつくるということになります。

「ビッグ・ベン」「コロッセオ」「ロンドン塔」「サグラダ・ファミリア」が並んで出てくるA9V3の新規収録マップ「おどる広告都市」の前振れとして、A9V1のマップ「混迷する交通都市」がありました。公式ガイドブックの「マップ攻略」では、「混迷する交通都市」のページに「“世界の有名建築を集めたテーマパーク”を作り、ランドマークをコレクションしたら楽しそうだ。」という能天気な記述が。同じ公式ガイドブックの「ランドマーク」の建物を解説するページでは「東武ワールドスクエア」と名指しですが、この「“世界の有名建築を集めたテーマパーク”」をあらかじめ作ってあるのが「おどる広告都市」ということになります。公式マスターズガイドの「おどる広告都市」のページでは、マップにある「ビッグ・ベン」「コロッセオ」「ロンドン塔」「サグラダ・ファミリア」のうち、なぜか「サグラダ・ファミリア」だけが「主な施設」の欄に記載されています。「ランドマーク」の建物には、マップ内に1つしか建設できないという制約が課されておらず、土地がある限りいくつでも「サグラダ・ファミリア」を建設しまくることができてしまいます。ちなみに公式ガイドブックによれば「ビッグ・ベン」は「NTTドコモ代々木ビルに見立てる」とよいそうです。土地がある限りいくつでも「NTTドコモ代々木ビル」を建て放題ですね。

なお、「A列車で行こう9」に登場するふつうのいろいろな建物を「土地利用の違い」のシンボル(記号)として使う「見立て」については、このサイトの「土地利用を表現してみよう」の項で詳述しています。地面に「うし」と書いてみせるのでなく、しかるべき建物の組合せによって東戸塚放牧地もしくは御料牧場という土地利用を表現するのが「不可視のものを代表する象徴」。現代っ子にとってはまことにどうでもいいことですが、テレビのクイズ番組のブームと海外旅行のブームと受験競争の過熱が重なっていたので、ある特定の世代には、なぜか何かのコントのネタ『桜田一家』「サグラダ・ファミリア」の名称を正確に表記できることを自慢することにやたらご執心の人がいるようです。現代っ子は「世界遺産」という一般化と抽象化のもとで学んでいくので、個別の建物名にそこまで拘泥することは少ないでしょう。

【豆知識】「A列車で行こうシリーズ」に欧州(ヨーロッパ)の建物が出てくるのはPS版の発売がきっかけで、当時、ソニーがPlayStation事業を展開していた(「西側」の)主要国の代表的な建物を入れるだけでおしまいというもの。「A列車で行こう9」にある「店舗特典建物」と性格は同じで、ゲームの内容とはほとんど関係がなく、「世界遺産」をバランスよく収録するといった考えになっているわけでもありません(本作の中で「世界遺産」だけがやたら充実しても無意味ですが)。なお、日本での「ヨーロッパ」というカタカナ表記が明日いきなり廃止になっても驚かないので「欧州」と書いておきます。これも1つの時代ですね。

考えようによっては、東京・渋谷のスクランブル交差点のように、道路の交差点そのものが「ランドマーク」になることも。アレでナニな地上のものとは思えないような神々しい形をした岩でもOK。「ランドマーク」が人工物である必要はなく、それが「ランドマーク」になる過程にあっては、そのものの名前が有名であることは条件にならず、「ランドマーク」になった後に名前がつき、その名前が知られていくという順番なのです。ものごとの成り立ちの順番を無視した物言いをしてしまうのは避けましょう。「A列車で行こう9」の「ランドマーク」には、漢字の書き順などどうでもいいといわんばかりの横暴さがあると言わざるを得ません。

ここまでに述べたことは、観念的に「正しい」「正しくない」という話ではなく、「A列車で行こう9」の価格から想起される高級感(※「A列車で行こう9」の宣伝や外箱の文章では高級感が演出されているので、メーカーは本製品に高級感というイメージを持たせたいと考えているのだと理解します)とミスマッチな粗雑さという印象になってしまって商売上、不利にしかならないということです。「A列車で行こう9」は何といってもお高いので、印象や見た目だけでなく中身が端から端までお高いことを期待しておくのがマナーというものでしょう。


目次

  1. マップコンストラクションでの「自動発展」
    これぞ『RT』リアルタイム・シミュレーションサンドボックスとは。いきなり路線図を描いてはいけません。いきなり私鉄をつくってはいけません。地形データとじっくり対峙しよう。

  2. マップコンストラクションとは
    「創作ゲーム」として配布するつもりで、ゲームモードを意識してつくろう。「デフォルメ」「ゲームの仕様」「地形」について解説。

  3. ランドマークとは
    「ランドマーク」と「シンボル」の違い。ケヴィン・リンチの「都市のイメージ」。

  4. 上を北に固定「サテライト」
    ゲームの中で道に迷っていませんか? マップの平面図を正しく使うための基本的な考え方を紹介。

  5. シナリオマップでの線路の直し方
    運輸政策研究所ほかの資料に基づき「路線網」「施設」「旅客と貨物」について解説。路線網構築上の制約条件を「地形」「都市」「鉄道」に即して考えます。

  6. リアルに見せるコツ『架空のJR線』
    国鉄・JRと私鉄の違いを路線網のトポロジーに着目して徹底理解。マップの骨格となる「架空のJR線」の作り方から愛知環状鉄道まで。

  7. 複数の『架空の私鉄』をリアルに作り分ける
    走らせる車両をとっかえひっかえするだけで満足していませんか。私鉄の情景を論理的につくる方法を紹介&高度経済成長期の地下鉄建設と複々線化を概観。

  8. 公団『架空の国鉄新線』で奥深さを
    「新線とは」「鉄建公団」「電算化」「光ファイバー網」などを解説。路線の建設の経緯や事業主体の違いをゲームの中でも表現してみましょう。

  9. リアルに見せるカギ「実在の車両」の使い方
    地形や路線網は「架空」にしても、ゲームに登場する車両は実在のもの。どんな情景が描けるのか、最新の「車両キット」「車両キット2nd」を含めて展望します。

(このページの初版公開:2020年10月6日、「連絡設備費」の初出:2019年3月1日、『架空のJR線』の初出:2019年10月18日)


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