「全赤」(クリアランス時間)を実装してください。ウインカーを出しなさい。夜間の走行中にテールランプが点灯していないのをなおしなさい。これは法令ですから絶対です。
[ in English ]
※翻訳結果についてのおことわり(in Japanese)
最終更新:2024年10月10日
[ A列車で行こう10への道 > 全赤と内輪差とウインカー ]
PCゲーム「A列車で行こう9」(A9V1からA9V4まで)は、Windowsのプログラムがフルスクラッチに近いかたちでコーディングされていたようである。最近のゲームソフトの開発では、UnityやUnreal Engineなどのミドルウェア(ゲームソフトをつくるためのソフトウェア:ゲームエンジンとも呼ばれる)が使われるのが主流である。これらのミドルウェアを使った開発では、例えば3Dオブジェクトの移動経路(モーションパス)や移動速度の加減速、重力による落下などについて、ゲームのデザイナーが生のコードをぜんぶ書く必要はなく、簡便なスクリプトを書くだけでリアルな表現が得られるようになっている。「A列車で行こう9」では、こうしたミドルウェアの恩恵がまったくなく、すべてをプログラマーが自分の知識だけでこつこつとコーディングしたように見受けられる。その一例として、「A列車で行こう9」の交差点での自動車の挙動は、なんとも不自然なものになっている。自動車の内輪差が表現されておらず、特に大型のバスでは、スリップしているかのような怖いモーションになってしまっている。また、LOGO言語のタートルではないけれど移動の処理を書くだけで精いっぱいなのか、ブレーキランプの点灯などの細部に気が回っていない。加減速の処理としては、自動車も列車もジェット旅客機も「速度0」から「巡航速度」まで直線的な速度変化しかしない。まるで、大昔の数学の時間にちょっとだけ習ったBASICのFOR文しか知らないままで書いたような処理に見える。なお、初代「A列車で行こう」が(ファミコン版を含め)BASICで書かれていたことはあまりにも有名である。
「A列車で行こう9」のメーカーがミドルウェアを使わずに開発するのは、本業のアーケードゲームの開発の事情によるようである。(このサイトの「作図しよう」のページでは、「サテライト」が右上にあることについて紹介した。「車窓モード」と「ゲームの進行速度」のUIに見られる特殊な操作性が実はアーケードのために割り当て済みの特定のキーコードで操作するためのものではないかという話題もある。)アーケードでは、1回のプレー時間も短く、さほど複雑な機能を実装するわけでもない。ミドルウェアを採用すると使用料もかかる。ミドルウェアを使わずに開発せよというのは、発注元の意向なのだろう。ミドルウェアを使わないなら使わないで、やりようはいろいろあるというのは当然のこと。「A列車で行こう9」の交差点についていえば、鉄道が主役のゲームの中では脇役である自動車のモーションが多少は不自然でも気にならないといえば気にならない(本当はすごく気になるけれど気にならないことにしておく)。ただ、交差点の信号の動作が本物と異なる(交差点のすべての信号を赤にして自動車を追い出すクリアランス時間がない:「全赤」とも呼ぶ)ことは、ミドルウェアのせいにはできない。本物の交差点をよく観察したり、資料で詳しく調べたりして、正確に表現しようということは、このメーカーの本業の受託開発では存在しない業務(発注元がやってくれる業務)である。そのような弱点がそのまま発露されているというのは、なんともみすぼらしい。
(誤) | A9の交差点信号の動作(「全赤」がない) |
---|---|
(正) | 「全赤」あり |
それでも、最近はミドルウェアが普及・低廉化してきたことでアーケードでもミドルウェアを使うことが増えたようで、このメーカーが手がけたアーケードゲームでもミドルウェアを使ったものがちらほら出てきている。次回作「A列車で行こう10」(A10)では、きっと最新のミドルウェアを適切に採用して、見違えるほどの品質を軽々と実現するのだろうと大いに期待できる。そのとき、前作となる「A列車で行こう9」からダイレクトに引き継ぐことができるのは、3Dのモデリングやテクスチャなどのアセットくらいのものである。「A列車で行こう9」が車両キットの拡充を続けているのも納得できる話である。
Windowsで動作する「A列車で行こう9」は、PS4にも移植されている。この移植版「A列車で行こうExp.」より後に発売されたPC版のA9V5は、それ以前のPC版とは異なり、PS4への移植の際に刷新されたコードを使って、かなりのところまでPS4版と共通の工程で開発されているように見受けられる。A9V4で実装された「船の水しぶき」は水面のテクスチャに何らかの効果を加えるだけの簡易なものだったが、A9V5で実装された「車両洗浄装置」は霧状の水を表現する高度なものである。本格的にミドルウェアを採用した開発に移っていく前夜のような空気である。ミドルウェアの種類によっては、WindowsとPS4以外のプラットフォームへの対応も可能になるだろう。
「A列車で行こう9」が企画された2009年の時点で、ここまで参考になる動画がたくさんあったわけではないので、「A列車で行こう9」の交差点や自動車があのようになってしまったのもしかたのない面もあった。
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(このページの初版公開:2020年4月29日、要望24の初出:2019年4月1日、要望16の初出:2020年1月27日、要望12の初出:2020年7月1日)
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