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「カタログ」は専門用語です。(初出:2019年7月15日、このページの初版公開:2020年7月3日、最終更新:2024年4月20日、5月25日は食堂車の日)


【「A列車で行こう9」収録車両】(2022年9月25日)


車両の選び方(カタログの作り方)

A列車で行こう9・Exp.の未収録車両一覧。納得のポリシーを探る。全国33都市のJR「普通・快速・特急・貨物」、広域の近鉄・東武、空港アクセス、万博輸送、譲渡車両。東京の地下鉄は遡及して網羅を。

目次


はしがき

PCゲーム「A列車で行こう9」は新作としての発売当時(2010年2月11日)「224種類の列車」(車両一覧はこちら)をアピールしていたが、フタを開けてみるとがっかりということがあったとかなかったとか。

※他人事のように書いているが、何を隠そう、開けてみてからがっかりしたのは私である。詳しい車両一覧が公開されるのを待たずに予約して購入したのだ。買う買わないで迷うことはなかったので車両一覧は気にしていなかったというのが正確だ。なんとなく載っている許諾済の鉄道会社名やスクリーンショットを見て、だいたいそういうのが入っているんだと思っていた。しかし、実際にゲームを始めてみると…。

※PS4版ではなんと「京王」が省かれてしまった。何を省いてよくて何は絶対に省いてはいけないかをメーカーが承知していないとわかった。PS4というハイソなプラットフォームをなんとこころえる。地元のサッカーチームに所属してPS4でサッカーのゲームもするのが東京の子どもではないのか。そこには味の素スタジアムがあって京王線が走っているはずだ。(追記:2020年7月15日に発売のPS4「A列車で行こうExp.+ コンプリート」で京王の車両が追加されたということです。なお、2020年8月20日に配信のアップデートパッチで東武の車両が遅れて収録されました。)

※「東急」「京王」の旧型車両については、渋谷駅前に設置されてニュースになったものと、北陸新幹線のニュースに関連して北鉄に目が向くというミーハーな選択にすぎない。寝そべってテレビを見ているだけで目に入ってくるものしか見ていないと言わざるを得ない。リサーチの責任はじぶんにあるということを理解していないのではクリエイターとして失格で、クリエイターではない社会人としても信用を落としてしまう。ただし、これは技術者の職域ではない。逆にいえば、技術者は(業として)作品を発表する資格を持たない。(クリエイターの職域を侵してはならない。)

ポリシーとは何か

実際のラインアップはともかく、どのようにラインアップを決めるのかというポリシーについては万人を納得させるべきである。「万人」ということに無理があるときは、最も大切にすべき客の価値観に合わせるべきである。「A列車で行こう9」「A列車で行こうExp.」における最も大切にすべき客とは、いうまでもなく17歳前後の人である。じぶんが17歳だったころ、という考えかたをしてはいけない。常に、現在の(今年の)17歳の人がどんな価値観を持つのかをリサーチしなければいけない

年長者ほど国鉄の汽車や機関車に興味が偏重し、身近な私鉄の普通電車や地下鉄の電車眼中にないというバイアスがあることを自覚しなければならない。

「鉄道趣味=イコール=写真」という図式がある。鉄道趣味のおもな情報源や交流の場は長い間、雑誌だった。雑誌には読者が投稿した写真が掲載される。その『鉄道写真』を、当時の雑誌の読者はどうやって撮っていたのか。フィルムである。デジタルカメラが普及するまで、鉄道写真はピーカンで重厚長大だったのだ。高感度フィルムもあるにはあるが、『鉄道写真』の世界では敬遠された。

【豆知識】新聞のカラー化は1988年。それ以前はカラーの印刷は特別なもので、カラー印刷の雑誌はそれだけで売れた。高感度フィルムはニュースやスポーツの取材で使うもので、最終的には白黒で使われるものだった。材料としての高感度フィルムは医用である。少ない被ばくでレントゲンが撮れるというものである。株式会社アートディンクの設立は1986年である。

既製品の鉄道模型では、プラスチック製品の製造のコスト上、身近な私鉄の普通電車や地下鉄の電車が積極的に製品化されるようになったのは、かなり最近のことである。鉄道模型の総合カタログを開いても国鉄・JRの車両ばかりという時代が長かった。また、「いつかはジオラマ」という夢を見させる売り方であったので、ジオラマ映えがしないと考えられた地下鉄の車両はまるで製品化されてこなかった。

【豆知識】テレビをつけても鉄道といえば外国の映画と新幹線とローカル線しか出てこない時代が長かった。安いタレントや元スポーツ選手が身近な私鉄の普通電車や地下鉄の電車に乗って出かけるという番組が毎週放送されるようになったのは比較的最近のことである。放送の24時間化や多チャンネル化によるものである。

しかし、現在のわたしたち[誰?]身近な私鉄の普通電車や地下鉄の電車をこそかけがえのないものとして大切に思うようになってきている。必ずしも「いつかはジオラマ」とは思わず、いまあるものを大切にするという態度を備えてきているのだ。このような変化に呼応して、鉄道模型でも安価なラインアップが充実してきているのはうれしいことだ。

あの車両追加してほしい」という「要望」がWikiなどをにぎわせているが、ラインアップの全体を考えることなしに追加という発想をすることは、ラインアップを壊す乱暴なことであるという自覚を持ちたい。本人の意識としては、他人のことには口出しせず自分のささやかな希望を述べただけ(自分がかわいい自分はいいひと)ということだろうが、まったく逆なのだ。

「A列車で行こう9」というゲームに収録する車両を選ぶ立場になったら、あなたはもう、他人が作ったカタログから選ぶという方法を取ってはいけない。自分でカタログを作る立場になったのだ。このことを真っ先に自覚すべし。そして、逆説的にはなるが、車両のラインアップの全体を考えるということをゲームのメーカーだけがするのでなく、わたしたち一人一人もそれをすることこそが、ポリシーへの納得感が共有される土壌をつくるということになるのだ。ここでは2009年7月に戻って「A列車で行こう9」に収録する車両をゼロベースで白紙から選びなおすつもりで「車両の選び方(カタログの作り方)」を見ていく。



データに基づいて「おもな大手民鉄」を定義する方法

おもな」というところを自分の責任で決定するというタスクである。自分でカタログを作る立場になった以上は、この責任から逃げてはならぬ。

営業キロ車両の数駅の数輸送人員
近畿日本鉄道(近鉄)501.11,905286573,582,000
東武鉄道(東武)463.31,884203903,760,000
阪急電鉄(阪急)143.61,30790644,563,000
東京急行電鉄(東急)104.91,200971,148,569,000
名古屋鉄道(名鉄)444.21,068275373,519,000

ウィキペディア「大手私鉄」によった。

営業キロ/(駅の数-1)輸送人員/車両の数/365
(東急) 1.12,622
(東京メトロ) 1.12,598
(都営)1.02,431
(京王) 1.22,120
(小田急) 1.71,917
(阪神) 1.01,793
(京急) 1.21,594
(相鉄) 1.51,577
(西武) 1.91,391
(阪急) 1.61,351
(東武) 2.31,314
(京成) 2.21,293
(京阪) 1.01,139
(名鉄) 1.6958
(南海) 1.6929
(西鉄) 1.5841
(近鉄) 1.8825

※都電は含まない。

「おもな大手民鉄」を階層的に定義する

  1. 広域の「近鉄」「東武」は別格とする
  2. 「近鉄」「東武」を除く「三大私鉄」:距離の「名鉄」・人員の「東急」・両数の「阪急」
  3. 最近まで準大手とされていた会社(「相鉄」)を除く

2.は、奇しくも東名阪での私鉄の経営環境の違いを言い表わすものとなった。

1.~3.に該当しない「大手民鉄」のうち、「空港アクセス」「地下鉄乗り入れ」は別枠で考える。

代表的な車両が1つあればよいと決めつけるのは、私鉄というものをまったく理解しない態度だといえる。また、私鉄は規模が小さいほど生活感があり、おいそれと収録してもらいたくはないという心情も生まれうることに注意が必要だ。うちの地元に土足で踏み込まないでほしい収録されたくないという気持ちへの配慮も必要なのだ。ソーシャルゲームやアプリを片手にづかづかと入って来られたらたまったものではない。これはシングルプレイのオフラインのゲームへの収録でも同じことだ。収録されるとプレー動画の題材にされるということである。

※「民鉄」と「私鉄」:建設の経緯や資本が純民間であることを強調する場合や日本民営鉄道協会でいうのが「民鉄」。JRでも地下鉄でもないことだけをいう場合に「私鉄」といい、3セクが含まれる場合と含まれない場合がある。利用客がほぼ沿線住民や寺社の参詣客に限られているようす(駅や電車内が私的な空間の延長のよう)を念頭に「私鉄」と書く場合もある。

異なるn個のものから
重複を許してr個を選ぶ
組合せの総数
r=2r=3r=4r=5r=6r=7
n=2 3 4 5 6 7 8
n=3 6 10 15 21 28 36
n=4 10 20 35 56 84 120
n=5 15 35 70 126 210 330

大手民鉄の通勤電車の連結・解結:日によって連結の相手が変わるのが最大の魅力。この情景を楽しむためには、通勤形の車両が複数形式ないといけない。2形式でもなお物足りない一方、3形式あれば万全だ。これは数学でいう「組合せ」である。1形式しかないと組合せは1、2形式あれば3だが、3形式に増やせば6になるのだ。通勤形が1形式しかないことがいかに絶望的か、また、2形式あることと3形式あることの違いは「1」ではなく「3」(1つ増やすと組合せが2倍になる)なのだと理解してほしい。これは、異形式の連結という凝った情景に限らず、複線で離合する上下列車(r=2)、2面4線の駅での上下同時の緩急接続(r=4)、7番線まである操車場(r=7)にどんな顔が並ぶかといったことなど、あらゆることに効いてくることであるから、ゲームに収録される車両のすべてについて基本的にいえることである。


理科年表「日本のおもな都市」を使って国鉄・JRの「おもな車両」を選定する方法

これまた「おもな」というところを自分の責任で決定するというタスクであるが、こちらは理科年表「日本のおもな都市」に依拠するという方法が利用可能であると知ろう。理科年表そのものを入手する必要はない。いわゆる帝国書院の巻末でじゅうぶんだ。

北日本・日本海側稚内、旭川、札幌、青森、秋田
北日本・太平洋側釧路、函館、宮古
中部日本・日本海側新潟、上越(高田)、富山、金沢、鳥取、松江
中部日本・太平洋側仙台、前橋、八丈島、東京、浜松、尾鷲、室戸、高知、宮崎
内陸長野、松本、飯田、名古屋
瀬戸内京都、大阪、岡山、広島、高松
南日本福岡、熊本、鹿児島
南西諸島奄美(名瀬)、那覇

「日本のおもな都市」は37あり、八丈島、室戸、奄美(名瀬)、那覇を除いた33の都市については、その都市で見られるJRの車両を必ず収録するというポリシーを考えることができる。(「日本のおもな都市」の中から都市を好き勝手に取捨選択してよいものではない。東京と大阪を特別扱いすることは考えられるが、その他の都市は等しく扱われるべきである。)

ここで、札幌、仙台、横浜、北九州などの政令指定都市だけに着目することは適当でない。横浜、北九州は、「日本のおもな都市」では東京、福岡に包含される。「日本のおもな都市」でいう札幌や仙台は東京と並ぶ重みを持つ。そして、この重みは37の都市すべてで同じである。「日本のおもな都市」は気象官署の配置のため、きわめて合理的に地域を分割したものである。電話局や裁判所、放送局の配置にも、そしてもちろん鉄道の敷設にも適った分割なのである。理科年表「日本のおもな都市」に依拠していれば「全国あまねく」という表現で作品をアピールできるようになる。実際には全国33都市に絞っているわけだが、そのように絞るという責任を理科年表「日本のおもな都市」に転嫁しているのだ。

※「全国(から集めた)」と銘打って商品やサービスを提供するには、47都道府県から1つずつ何か出してくるといった具体的な裏付けが必要だ。関東と関西しかなければ「東西対抗」くらいにしか言えない。

電車でGO!他社有名ゲームでも取り上げられて変な知名度のあるほくほく線(1997年)だけを収録するのではポリシーがないと疑われうる。(※JR持ちの「スーパーいなば」は収録されているが、どう見てもトミックス鉄道模型のカメラカーという製品がなかったら収録されていないだろうと疑う。変な感じにお気に入り(実車には無関心なままカメラカーという製品のカタログスペックによる満足に基づく愛着)なのか、「車両工場」にも配置されている。「車窓モード」のカメラの位置がまるでこれそのもの。なんともはや。)

※「車窓モード」は実質的に「運転士ビュー」であるので、カメラの位置は運転台にあってほしく、運転台の位置や高さは車種によって異なるので、「車窓モード」のカメラの位置というものは車種ごとに変えたいということである。

ここでは「A列車で行こう9」において特に手薄となっている都市に限って見ていく。

長野・松本・飯田

普通・快速特急貨物
長野 「E127系100番代(長野色)」
「169系(長野色)」
「E351系」 「EH200」
「EF64」
「ED62」
松本 「115系(長野色)」
「211系(長野色)」
「189系(あずさ色)」
「E257系0番代」
飯田 「211系(湘南色)」(東海)
「313系」(東海)など
「381系(特急色)」
「383系」(東海)

「長野色」の車両がまったく収録されていないことによって、「日本のおもな都市」でいう長野、松本の情景が描けないほか、同じ車両が活躍する山梨県内の情景も描けないことにつながっている。「A列車で行こう9」で期待されるのは、観光客が山と特急列車の写真を撮る感覚ではなく、高校生が電車で通学する感覚が味わえることのはずだ。運転免許を取ってすっかり電車には乗らなくなったけれど、高校生の時に乗った電車が急に懐かしくなった、という客のためのゲームなのだ。

新潟・上越(高田)

普通快速特急貨物
新潟 ※白新線
※越後線
485系「くびき野」 485系「北越」 「ムーンライトえちご」
上越(高田) 「115系」 183・189系「妙高」 「EF64」

いきなり弥彦線だけあってもしかたないことを理解していただく。夜行列車は電車列車であっても貨物に準じるものとみなす。運行のための勤務のシフトに視点を置いた形だ。

富山・金沢

普通快速特急貨物
富山 「413系」
キハ40形・キハ47形(城端線)
「457系」 「681系」 「DE10」(城端線)
金沢 「415系800番代」(七尾線) 471系「ホリデーライナーかなざわ」 「583系」
「トワイライトエクスプレス」

いわゆる本線を走る列車は大都市から直通してきたり、大都市で使われる車両と同じ形式の短い編成であったりするので、収録の漏れはあまりない。一方、この都市らしさを描くには地元の列車が収録されていないといけない。

鳥取・松江

普通快速特急貨物
鳥取 「12系」
「キハ47形」
キハ126系・キハ121系「とっとりライナー」 キハ181系「はまかぜ」
HOT7000系「スーパーはくと」
「キハ187系」
「サンライズ出雲」
松江 「115系」
「キハ40系」
113系「通勤ライナー」 「381系(やくも色)」 「87系」

どの都道府県でも県庁所在地では通勤電車(※気動車でもよい)が走り特急列車が発着し、車両はまったくいろいろだけれど通勤ライナーのような列車がだいたいある。これは都道府県の施策である。JRが決定することではない。旅情でもなく郷愁でもなく、ましてやファンタジー(空想)ではなく、いまそこにあるあたりまえの光景を描けてこそ広い支持が得られるはずだ。

かなり細かいと感じられるだろうが、「日本のおもな都市」から八丈島、室戸、奄美(名瀬)、那覇を除いた33の都市については、必ず網羅する必要があると考えるのは妥当なことで、この限りにおいて収録すべき車両がべらぼうに増えるということはないのだ。上限が先に決まる方法をとり、その中で最大限の細かさを獲得すべきだというポリシーである。「きりがない」などと観念的なことを述べてはいけない。

釧路・函館・宮古

普通快速特急貨物
釧路 「キハ40系」
「キハ54形」
キハ40形「狩勝」
臨時快速(愛称なし)
キハ183系「おおぞら」
キハ283系「スーパーおおぞら」
「DF200」
室蘭製油所
大塚製薬
エゾシカ侵入防止フェンス
函館 「733系」
「キハ40形」
「50系51形」
733系「はこだてライナー」
キハ201系「ニセコライナー」
キハ281系「スーパー北斗」 「EH800」
「DF200」
宮古 「36-100形」(三陸鉄道)
「キハ110系」
「106急行バス」 106特急バス
「106スーパー特急バス」
「宮古臨港線」(1984年に廃線)
岩手開発鉄道

鉄道の車両だけでは情景を描ききれない都市もある。


空港アクセス」の車両は別枠で

空港アクセス列車は網羅すべきであるというポリシーがすでにあると見受けられるが、収録されているのが特急形に限られている。しかし、国内最大の国内線のターミナルである羽田空港では、すべて普通電車(通勤形)である。全国各地からバスと飛行機で羽田空港に到着すると、新幹線でも山手線でもなく都営浅草線こそが「東京の電車」というイメージになるのだ。(羽田空港に乗り入れる車両としては都営浅草線と北総線の車両が目立つ。)


万博輸送」の車両は別枠で

主な博覧会(中止を含む)と世界的なスポーツイベントに関連して整備された路線や列車は(遡及して)網羅すべきであるというポリシーを考えることができる。また、新幹線の車両についてはすでに遡及して網羅されているが、このポリシーとも矛盾しない。

JRの車両の色違いマイナーチェンジに過ぎないとしても大きな意味がある。空港アクセス列車と同様、非常に多くの人の目に触れ、全国的な認知度を得ている(かもしれない)ということである。実際に乗車した人にとっては思い出になっていることだろう。

この他の都市モノレール・リニア地下鉄(ミニ地下鉄)は私鉄における準大手・中小と同じ扱いをするのが妥当ではなかろうか。


大手民鉄から地方への「譲渡車両



地下鉄乗り入れ」の車両は手厚く収録を

昭和から平成にかけての鉄道史を学ぶ題材として、代わりが利かない。単なるバリエーションの1つという軽さでなく、適切に軽重をつけてほしい。


東京の地下鉄の車両は過去に遡って収録を

東京の地下鉄だけは、地下鉄事業が市ではなく都や営団の事業になっており特別である。営団では歴史的な名車も多い。路線カラーも豊富で色とりどりである。取捨選択することのほうが難しい。(なぜ銀座線だけ古いのも入れるのか。なぜ丸ノ内線や半蔵門線はないのか。20世紀の名車「6000系」を入れない理由があるか。浦安市内某所を表現するのに東西線は必須で、ほかでは代わりが利かない。何をどう選んでも極めて恣意的と受け止められる。取捨選択などしないのがいちばん無難である。東京都交通局の許諾を得て収録されたのが都電1形式というのが泣かせる。)

東京以外の地下鉄は特別なポリシーがないと収録に至らないだろう。札幌市営地下鉄については上述。ほかに、国際的な観光地であり「京阪」「近鉄」との相互直通運転のある京都市営地下鉄を収録すべく何らかのポリシーをでっち上げるということは考えられる。名古屋圏では車両のバリエーションが少ないことから名古屋市営地下鉄を収録して補うというポリシーもありうる。しかし、収録されたところでどの程度、全国の客が喜ぶのかはわからない。

本作のタイトル「A列車で行こう」の「A列車」はステンレスむき出しのいかつい地下鉄である。東急のような車両というか東急がライセンスを受けた車両の原型のようなものである。本作が「A列車で行こう9」と名乗っていながら地下鉄の表現が置き去りのままでは、看板に偽りありということになる。(すでになっている。)


モノレール・新交通システム・LRT・路面電車は別枠で

「A列車で行こう9」には七隈線の車両と都電・東急世田谷線・広島電鉄が収録されて発売されたのち、バージョンアップで江ノ電が追加されている。しかし、これらは本来、ほかの在来線車両とは別の種類の線路(共用できない線路)を敷設する機能を実装した上で収録すべきものである。この考えの延長では、モノレール・新交通システム・LRT・路面電車を俯瞰しながら機能の実装を進めることになるだろう。

これらは全国どこにでもあるものではない。何を収録するにしても、それを特別に収録するのだという印象になる。優先順位をつける方法はあるだろうか。

  1. 観光客などの認知度:輸送量の多いものを優先して収録するというポリシー
  2. 技術上の“元祖”:日本初などの歴史に照らして決めるというポリシー
  3. 坂道や港町などの情景:登山鉄道やロープウェーなどとともに(急こう配を克服するためのゲーム要素)

線路のほかにも、さまざまなものを用意しないと浮いてしまう。(現に浮いている。)


国鉄の事業用車は過去に遡って収録を

新幹線・東京の地下鉄と同様に、国鉄の事業用車はある程度過去に遡って収録すべきである。そもそも種類は少ない。絵本やDVD、それにプラレール®などの玩具に影響されて「ドクターイエロー」という固有名詞だけを言葉の上で喜ぶという態度に陥ってはいけない。「ドクターイエロー」は事業用車である。ゲーム内でも特殊な役割を担わせることが望ましいほか、同一形式を1編成しか保有できないように制約してほしい。現在のバージョンでは「ドクターイエロー」だけを300編成保有してマップを埋め尽くすことができてしまうが、これはとんでもないことである。「Project」のメニューからマップ内に1つだけ設置可能な建物と同様に、1つだけ保有できるという実装にするのが自然だ。あるいはプレーヤーの操作は受け付けず、ランダムに登場して通り抜けるだけという表現でもよい。事業用車は、単にそういう車両がありますから好きに使ってください(オブジェとして飾ってください)というのでなく、いかにも事業用車らしい使い方が促されるようになっていてほしいということである。なお、保線作業に使われる「マルチプルタイタンパー(Multiple Tie Tamper)」や「軌陸車」は、鉄道車両とはみなされない。


22色のカラーバリエーションをチェック

「A列車で行こう9」の「車両」は、ゲームを進める上での有利・不利をもたらす選択肢であるとともに、鉄道の情景を映像として見せるための舞台装置もしくは役者という面がある。プレーヤーにとって、まったく知らない車両であっても、色や形だけで気に入ったものを選んで使っていくということが大いにある。

このためには、限られたラインアップの中で可能な限り網羅的にカラーバリエーションがそろっていることが望まれる。とはいえ、実在の車両に存在しない塗色を勝手に収録するわけにはいかないし、ユーザーに好き勝手に塗り替えさせることも許されない。鉄道会社や車種はさまざまだが、全体としてカラーバリエーションがある状態を目指してほしい。実際に色とりどりの車両が走っている井の頭線や世田谷線などについて、全色を収録するということも魅力的である。路面電車や新交通システムも、1つの路線にさまざまな色の車両が走る会社が多い。保有車両数が少なく1両ずつが「1点もの」のように製造される3セクでも、1両ずつ塗装を変えているところがある。

文房具や絵の具を参考に、ポピュラーな色名を持つオーソドックスな色を先に列挙し、その色の車両が全国のどこかにかろうじて存在するなら、どんなにマイナーなものであっても収録する、といったポリシーが考えられる。JR発足後の貨車にも斬新な色のものがあるほか、コンテナはまさに色とりどりである。「A列車で行こう9」の情景は「車両」だけで完成するものではないから、建物やアイテムも含めてカラーバリエーションがそろっていればよいともいえる。「A列車で行こう9」の画面の中を色とりどりにするための最終手段としては、ホームの柱や沿線の看板に好きな色を使えるということでも歓迎だ。

カラーバリエーション」「色がおかしい」を参照のこと。


参考にした動画

「近鉄」「東武」


「地下鉄乗り入れ」






「智頭急行」

「かにカニはまかぜ」「亀戸」

キハ147形

「譲渡車両」

「京阪」

「京急」

「京王」

「路面電車」「東武浅草」

「福岡」「上福岡」

「エゾシカ」「小川町」

「機関車」

「事業用車」





そもそも「車両」とは何か

「A列車で行こう9」のように3Dグラフィックで車両を描くPCゲームでいう「車両」の実体は何か。「A列車で行こう9」はゲームである。ここには鉄道模型ともVRMともBVEともマインクラフトとも異なるものがあるはずだ。

3Dワールド上の物体としての「車両」

わたしたちがCGの「車両」にリアリティ(生々しさ)を感じるために必要な要素は何だろう。これらが備わっていなければ、いくらラインアップだけが増えても、わたしたちの満足にはつながらない。リアリティに関する不満を直視しよう。

ゲーム上の選択肢としての記号的な意味

鉄道模型とは異なり、「A列車で行こう9」のゲームシステムの中でゲーム要素(選択や操作の対象となるシンボル)の1つとなるのが「車両」である。実車が電化方式の違いや気候の違いなどに応じて製造されたものであれば、そのことはゲーム内でも特徴として表現され、ゲームを左右する存在になっていてほしい。直流電化用の車両と交流電化用の車両のように、対になっていて使い分けをするというものは、ゲーム内でも使い分けを楽しみたいものだから、ラインアップが片側だけにならないようにしてほしい。

ゲームの進行(プレー)と直結する機能や挙動

ゲームの進行や条件に応じて、さまざまな動作や表示の変化がついてほしい。このことをビヘイビアという。鉄道模型のように室内照明とヘッドライト・テールライトが明滅するだけでなく、さまざまな灯具類が血の通った感じダイナミックに動作してほしい。CGで乗客を描く必要はないが、乗降のようすを生々しく感じさせる演出に凝ってほしい。プレーヤーが運転するわけではないが、運転上の要素を盛り込んで、血の通った感じ運転の生々しさを演出してほしい。

ここで挙げた項目は、そのほとんどがプログラムを書きさえすれば材料やライセンスの費用はいっさいなしで実現する。1度でもプログラムを書けば、すでにラインアップされている車両すべてにリアリティを与え、ゲームにさらなる奥深さをもたらす。ゲームソフトの開発現場で「プログラムを書かない」ましてや「書けない」「書かせない」など、とんでもないことである。

これまで10年以上にわたる「A列車で行こう9」のバージョンアップでは、新機能の追加があってもあまり話題にならず、車両や建物の追加や、同時に使用できる数の増加など、まるでプラレール®や鉄道模型の新製品のような注目のされ方ばかりをしてきた。この背景には客が若年層主体で未熟であることに加え、おおかたのひとはプログラミングの経験がないことも大きかった。学校でのプログラミングの必修化により、複雑な機能の実装や新機能への技術的な期待が具体的に語られるように変わることを期待する。

一方、テクスチャや3Dモデルなどのアセットの追加だけは容易だがプログラムの変更が著しく困難という硬直的な仕様になっているとすれば、当初(2009年)の仕様書がよほどひどいということである。

根本の仕様がいくらかは改良されることも信じながら、車両は基本的にいくらでも増やせるという前提に立つ。当然ながら、わたしたちはゲームソフトを通じて鉄道会社にまっとうなロイヤリティーが納められることを前提に、ゲームソフトをしかるべき価格で買う。安ければいいというものではない。客がラインアップのすべてを購入すると5万円程度になるボリュームを想定する。買ったことを自慢できるためには5万円くらいしないと話にならないというのもさることながら、ぜんぶ買わなくても満足できるラインアップにすることと、税別7千円程度(※消費税が20%になっても税込8千円台)の最小限のパッケージでもじゅうぶんに楽しめるようにすることを目指すとよい。客から見て買いたいものがないという状況は絶対に避けるべきである。1人1人にとってはほんの1つか2つの、しかしとてつもなく思い入れのあるお気に入りの車両というのがあるはずだ。多くの客のてんでばらばらなお気に入りの車両をできるだけ広く深く揃えておくのがラインアップというものである。

※他人事のように書いているが、何を隠そう、私の場合は「113系(横須賀色)」が1両ずつばら売りしかなかったときに先頭車が品切れで1両しか入手できず、あとにもさきにもそれっきりになってしまった…というのは鉄道模型の話であるが(それはそれで大切な思い出になっているので、いまさら買いなおしたりはしません)「209系」の雨どいに絶句し、「253系」に信号炎管がないのに絶句し、「E217系」の顔に絶句し、「103系」「201系」のドアの窓に絶句し、「E231系」の顔が縦長になっているのに絶句し、「113系(横須賀色)」色がおかしいのに絶句し、「183系」のつもりで使えるかなと思った「485系」色がおかしいのに絶句し、「京急」「京成」の車両が20mに引き伸ばされているのに絶句し、要するに地元の車両(※千葉です)が『全滅』と思って絶望したのであった。「255系」「215系」ばかり走らせても飽きるのが早い。実車は非常に貴重だった「205系(カナリアイエロー)」をたくさん走らせて「185系」「E257系」と共演させるなどして乗り切った。どうしようもないところで客に気苦労をかけてくるゲームだと思った。


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