ゲームの中でも豊かな色彩を楽しみたい。これを否定するかのような実装がなされている。日本では男性の20人に1人の割合で、見えにくい色のある人がいる。粘り強く色彩と向き合っていきたい。
[ in English ]
※翻訳結果についてのおことわり(in Japanese)
最終更新:2024年10月10日
[ なぜおかしくなる? | どこがおかしい? | カラーユニバーサルデザイン(CUD)とは ]
色覚に起因 | 学校での色覚検査の廃止の影響もある |
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デバイスに起因 | いわゆる非デザイナーが使わせられるモニターの質が低い |
資料写真に起因 | ホワイトバランスの狂った画像や古い印刷物が使われてしまう |
エンジニアの知識の偏りに起因 | HSV表色系を習わない人もいる |
オフショア開発に起因 | 言語と文化の違いにより色彩に関する指示が正確に伝達されない |
客層の年齢の低さに起因 | 色の誤りを指摘できるだけの分析力や言語化能力を持たない |
信号機の灯具の色 |
青緑色が純緑色に、橙色がレモンイエローになってしまっている 中継信号機は電球色だが緑みの混じった白っぽい色になってしまっている (実物の光色はsRGBなどの色域を越えて鮮烈。動画や写真ではなく実物を見てほしい。その印象を、sRGBでできる範囲でじゅうぶんに表現してほしい) |
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レールの色 |
レールは鉄だから赤みのある茶色だが、赤みのほとんどないダークグレーになってしまっている 実際のレールは明るい色をしているが、かなり暗い色になってしまっている (ポイントのレールは材質が異なる) |
E653系の色 |
グリーンレイク色(エメラルドグリーン)がただの緑色に、紫みのあるブルーオーシャン色がただの青色に、同じく紫みのあるスカーレットブロッサム色がただの赤色になってしまっている (絵具でいえば白を混ぜた色だが、ゲーム画面では白がまったく混ざっていない原色のような色になってしまっている) |
国鉄特急色 |
PS4版ではやや直されているようにも見えるが、わたしたちが期待する色にはなっていない (旧型車両の色は実車でも褪色の進行度がまちまちで、どの状態の色を再現すると好ましいかはケースバイケース) |
赤い紅葉 |
ゲーム画面に赤い紅葉はなく、黄色い紅葉は緑みが強すぎて美しくない。ゲーム内の日付に従って葉の色がグラデーションで変わっていくが、変わる途中の色が非現実的で非常に汚い (現実に近年は気候変動であまり美しい紅葉は拝めない年が多いが、ゲームの中では理想的な紅葉のイメージが提示されたい) |
作品において色は非常に重要な表現である。ゲーム業界でもカラーユニバーサルデザイン(CUD)への取り組みが進められているが、プレーヤーの色覚特性を考慮しようという機運の高まりとは対照的に、ゲームの作り手の色覚について言及されることは非常に少ない。色覚に関する話題は繊細なものとして避けられてきたという社会的背景があるとしても、作品において明らかに(偶然ではなく系統的に)「色がおかしい」場合においてすら、そうした指摘をできなかったことに反省と後悔がある。色覚が違えば考え方まで違う。ゲームの中の何かが「おかしい」と感じられるとき、そこには色覚の違い(に由来する発想の順序や枠組みの違い)があるのではないかと想像してみよう。
※文中の太字は、色覚特性に起因する独特の判断を一般の人が誤解するようすを表わしたもの。このページの筆者が太字の文字通りに作り手を非難しているわけではないことを正確に読み取ってほしい。
鉄道模型も楽しむ人は「A列車で行こう9」の色のおかしさを「再現の上手い下手」としか思わないかも知れないが、「A列車で行こう9」で起きている色の問題は複雑で深刻だ。作者がじぶんで色を決めるべき場面で色をうまく使えていない、そもそも色というものをシステマティックに考えた形跡がないような仕様や実装なのだ。色覚検査が必須の鉄道業界ではファンも含めて色彩には敏感で、実車と異なる色味の模型やゲームがあれば、正確な色味を調べもしないで適当な色にしてしまう手抜きだ、いい加減なことをするひどい作り手だ、鉄道をばかにしているのではないか、という感想になる。しかし、「A列車で行こう9」で起きているのはそういうことではなかったのだ。これは大まじめに一生懸命に製作してなお、こうなっているのだ。見えにくい色のある人が、日本では男性の20人に1人の割合でいるとされる。おかしな対立に陥ることなく色彩を楽しんでいきたいという決意のもと、あえて指摘するものである。
例えば、「A列車で行こう9」では神田付近などのレンガ高架橋のように見える構造物が使用可能だが、アイテム名は「アーチ橋」で「石を積み重ねた橋桁」「歴史あるローカル線に見られ」と説明されるのみで、レンガであるということがいっさい述べられていない。この「アーチ橋」を並べて複線トンネルに見せかけてドクターイエローを配置した公式のスクリーンショットがある。色覚に関する事情を知らずに見ると、あまりにも非常識だという感想にしかならないが、ふざけているわけでも手抜きをしているわけでもなく、色がわかっていないだけなのだ。神田付近などのレンガ高架橋が得も言われぬ魅力を放つのは、それがレンガだからに他ならないのだが、レンガの色が見えない人にとっては「アーチ橋」という形状にしか関心が向かないわけである。なお、レンガは「開国」「横浜」や「近代化」「帝都」「東京」の象徴であり、「ローカル線」の風情を成すものではない。レンガの色が見えないという事情があっても、歴史を正確に学ぶ(文化財の価値を正しく理解する)努力を怠ってよいという免罪符にはならないことを知ってほしい。
ほかに、色をつけるべきでない(白くすればよい)場面で何か明確な色名の色をつけてしまう、「A列車で行こう9」のタイトルの文字に1文字だけ色をつけたり「ファイルといえば黄色」とでも言わんばかりに「File」メニューだけを黄色にするなど(からかわれているかおちょくられていると感じてしまうほど)色の使い方に意味がまったくない、10色のカラーバリエーションが売りの東急世田谷線から勝手に1色だけを選んでしまう(しかも「アルプスグリーン」と「アップルグリーン」をごちゃ混ぜにして「グリーン」という色名で収録する)といった問題が起きている。115系の塗色については、代表的な湘南色と横須賀色のほかに、なぜか長野色や新潟色といったメジャーな塗装をすべて無視して、最もマイナーな弥彦色を収録するということが起きている。色覚に関する事情を考えなければ、なんとひねくれた(奇をてらった、常識に反する「逆張り」の)ことをするのだという感想になるが、どうやら色覚に起因して弥彦色には何かピンと来るものがあったようなのである。鉄道車両については模型のカタログに準じて塗装のバリエーションを用意しようという考えが導入されているが、作り手が色をわかっているわけではなく、まったくハンドリングできていないに等しい。415系(白電)については、常磐線ではなく九州のものだけが収録されている。常磐線の塗装は上部に帯がなく、九州の塗装は上部に帯がある。まるで「大は小を兼ねる」とでも言わんばかりに、帯がないよりはあるほうが立派だという「帯の有り無し」だけを見て決めたかのようである。また、「赤電」と呼ばれたオリジナルの塗色の415系や711系、「レッドトレイン」と呼ばれた赤色の50系客車の収録には至っていないが、その判断に色覚特性が影響していないとは言い切れないだろう。車両以外の建物や橋については、「A列車で行こう9」では1つのオブジェクトは1色きりで、そこにはカラーバリエーションという考えがまったく存在していない。「りんごは赤」のように、物の名前と色の名前を1対1で結びつけて暗記するため、1つの物がいろいろな色をしていれば(暗記のしようがなく)そのこと自体に腹を立て(?)たり、じぶんが暗記した「りんごは赤」という知識に反する「アップルグリーン」という色名を名乗る東急世田谷線を許せない(?)といった、色覚に関する事情を知らない人からすれば理不尽極まりないことが、「A列車で行こう9」というゲームには散見されるのである。
実物をモデルにして実物の通りの色を再現すれば済むものについて指摘するのはたやすいし修正するのも容易である。3Dグラフィックのレンダリングの設計として、テクスチャに頼りきりで表面の質感やライティングへの注意がほとんど払われていないといった技術的な問題に対しても適用可能な既存の解決策がいくらでもある。ここでは初めに、そういう簡単なことでは済まない、作者がじぶんの責任で配色を決定しないといけない場面での色彩の考えかたについて、基礎中の基礎のみを簡単におさらいする。なお、色彩設計は、それだけで1つの会社や職業になるほど高度に専門的な業務であるので、必ずしも作品の作者がじぶんだけで(独力で)できる必要はないことを申し添える。(できないことを責めるわけではないことを理解して読んでほしい。)
「A列車で行こう9」という作品の「色」について、何が起きていて、どう問題なのかを理解するのは、色覚多様性について通り一遍の研修などを受けただけでは難しい。上司として部下の色覚多様性に『配慮』する(色覚に由来するいかなる問題も起きないように監督する)といった責任を伴うでもない学生や新人には、およそ考えもおよばない領域である。見えない色が特にない(どの色も見える色覚特性である)というだけでは、何も思わない人のほうが多いと思われ、現に「A列車で行こう9」の「色がおかしい」という話をあまり見かけない。気が置けない間柄の人に色覚多様性の当事者がいれば、率直な話を聞けるだろう。詳しくは、このサイトの「カラーバリエーション」「車両の選び方(カタログの作り方)」とフォーラムの「True Color」を熟読してほしい。
わたしたちは豊かな色彩を楽しみながら生きている。ゲームの中でも色彩を楽しみたいと思うのは自然なことであるが、これを否定するかのような実装(色彩を無視したり軽視したり極端な偏りのある扱い)がなされているのは不快なことである。このページのタイトルを「色がおかしい」という糾弾調のものにせざるを得ないことは、どうかお許しいただきたい。
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(このページの初版公開:2020年4月29日、要望24の初出:2019年4月1日、要望16の初出:2020年1月27日、要望12の初出:2020年7月1日)
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