[ マップの作り方 > マップコンストラクション > 上を北に固定「サテライト」 ]
小一時間で初心者卒業。大人のA列車。ゲームならではのデフォルメを楽しむ。(最終更新:2024年10月10日)
正方形の図面というものはなかなかないので、これだけでわたしたちにとってちょっと難しい作業になるのが、「A列車で行こう9」で正方形の「サテライト」を見ながら何かを考えるということです。また、「サテライト」を回転させることもできるのは、マップの中で「車窓モード」を楽しみながら現在位置を確かめたいというニーズに応えるものですが、ここではマップの計画を図面の上で行なうという目的ですから、回転させてはいけません。普段から回転させてプレーしているのでしょう、スクリーンショットを撮るときに向きを間違えたまま気づかないひとがいました。
試しに、「サテライト」を回転させる人と上を北に固定する人を探してみました。(動画の人については、動画の中で「サテライト」を使っているところを効率的に見つける方法がないので探せていません。プレー中に「サテライト」を使っているところのスクリーンショットがない人などは、ここに含めていません。あしからず。)
これは多数決ではありません。プレーの内容とも特に関係なく両方の人がいる感じです。プレーに支障がなければどちらでもいいですが、他人に見せるものは上を北に固定するとよいでしょう。そもそも他人に見せたり提供(配布)したりすることが前提のマップ(「創作ゲーム」)をつくるときは、自分のマップだけれど自分のマップではないという扱いが必要です。常に他人の目で見る客観的な見かたをしていればよいので、「サテライト」は常に上を北に固定していればよいでしょう。
ゲームの中では、「サテライト」を上を北に固定して位置関係や方角を正確に認識しようとする場面と、方角は気にせず“風景”としてぼんやり眺めて楽しむ場面とがあります。わたしたちは意識的にせよ無意識にせよ、両方の見かたを使い分けてゲームを満喫しているといえます。特に、グラフィックのオプションで「影」を有効にすると重いので、ふだんは「影」をオフにしてプレーしていると、方角があまり意識されません。いわば、360度どちらを向いても南向きで日当たり良好。あるいは映画撮影所の屋内のセットの照明のようなもの。これは悪いことではなく、ゲームのマップが正方形で狭く感じられてしまうことを、いくぶん緩和してくれる心理的なはたらきです。
後述する「路線図」に関しても正方形ということが変な影響を及ぼします。ゲームのマップを自分ひとりで満喫している分には何も困らないと思いますが、つくったマップを他人に見せよう、ひいてはゲームモードでプレーしてもらおう(「創作ゲーム」を制作・配布しよう)とするときには、マップ内の空間をどのように認識してもらいたいのかということを、マップの作者がガイドする(誘導する)ことが必要でしょう。そうでないと、マップのおもしろさがわかるまえに「(空間構成が)よくわからない」といって、投げ出されてしまいかねません。このような部分を補う“戦略”として「(ゲームのマップの)路線図」を描くユーザーもいるでしょう。
ゲームのマップ(「創作ゲーム」のデータ)のほかに「路線図」を添付する“ねらい”は、マップの作者として考えた空間構成や距離感を、上を北に固定した「サテライト」のような厳密すぎるものとしてではなく、ゲームをよりのびのびと楽しめる主観的なものとして提示することにあります。このとき、マップそのものは正方形であるけれども、他人に見せる「路線図」は正方形でなくてよく、そこに描く路線網の形状や距離感も、主観的に誇張したものを描いて、まったく問題ないのです。少なくとも、こんな「路線図」(何も考えずにドアの上の横に細長い停車駅案内図の体裁で描きながらマップは正方形だからといって強引に正方形の中に収めようとして収まりきらず中途半端に縦長)を描いていては、マップがさらに狭苦しく感じられてしまうだけでしょう。
スプーンの上に一口分の料理を盛り付ける遊び(「映え」)を「A列車で行こう9」でする人もいるでしょうが、そうではない場合にわざわざ「路線図」を正方形で描く必要はまったくありません。「A列車で行こう9」ほどにも秋の夜長にじっくりひとりでこつこつ遊べるゲームのプレーヤーたるもの、少しでも長く、少しでも多く、このゲームを楽しみたいと思うもの。仕様上、マップの広さに上限があるのは承知の上で、いかにして主観的には広い空間を感じとろうかと工夫を凝らすものです。「隣町」(マップ外接続)を駆使するのも、その1つです。あえて具体的でなくぼんやりと想像することで、マップがどこまでも続くかのような錯覚が得られます。ゲームのマップから離れた自由な「路線図」には、マップ外のようすも自由に想像して描いてみましょう。
一方、鉄道模型のモジュールレイアウトに着想を得たのでしょうか、想像ではなく「隣町」というものを実際に分担して(互いに「隣町」をつくりあって)仮想デスクトップのように“広大な”『マップ』をつくろうとするグループもあるようですが、それはちょっと即物的すぎる、あるいは作り手の満足に偏りすぎていて、ゲームそのものはつまらなくしてしまうものかなとも思います。そもそも秋の夜長にひとりでじっくりこつこつ遊べる「A列車で行こう9」なのに他人の都合に左右されてしまうというのでは変な遠慮が出てしまいます。「A列車で行こうシリーズ」という息の長いゲームと末永くつきあうには、一期一会の他人という存在はあまりにもはかないものです。
『本物』をよく観察して
「想像」とは、現実離れした荒唐無稽なことを考えたりしゃべったりするという意味ではありません。記憶を整理するために夢を見るといわれますが、目が覚めている間にするわたしたちの想像も、それまでに見たことのあるものという範囲に限定されます。「A列車で行こうシリーズ」をどのように遊ぼうかということも、そもそもメーカーがどのようなゲームにしようとするのかということも、こうした現実的な制約のもとにあるわけです。プレーヤーの中には、実生活の中では鉄道というものが存在していない*かのように、マイカーの視点で道路ばかりをつくったり、高速バスのような直行便だらけの路線にしたり、バス停に掲出される運行系統図の体裁で『路線図』を描いてしまう人もいるようです。しかし、主役は鉄道です。見たことのないものや知らないものは、いつまでもそのままになりがち。与えられるのを待つのでなく能動的により豊かな表現や深い楽しみを勝ち取っていくには、本物の鉄道をよく観察する以外に方法はありません。
*お住まいの地域に鉄道があっても、それを日常的には利用しない小中学生や、自転車通学の高校生という意味を含みます。沖縄を含む離島からは、まず航空機やフェリーで本土に出向かなければ鉄道というものがありません。そこから逆算的に『鉄道といえば航空機やフェリー』という発想が強いのでしょうか、このゲームで鉄道を味わうことを早々に投げ出して航空路線ごっこにいそしんでしまう人たちもいるようです。しかし、主役は鉄道です。地元では鉄道を利用していなかったとしても、進学や就職で上京してから初めて鉄道を日常的に利用するようになった、上京(あるいは、その後の帰省)するときに乗った長距離列車(特に新幹線や、古くはブルートレイン)に深い思い入れがあるといった実体験がまったくないのでは「A列車で行こう9」をじゅうぶんにプレーすることはかなわないでしょう。このゲームは本質的に、進学で上京する大学生が主たるターゲットになっているといえましょう。上京してまで入りたい大学があって、実際に入れるというのは幸運なことです。ゲームソフトには表現に関する規制として「レーティング」の仕組みがありますが、こと「A列車で行こう9」については単に年齢というだけでなく、非常に高い要求をしてくるゲームだといえます。要求を満たしていない者が本作をプレーすれば、そのことはすぐにわかってしまいます。なお、単に東京に遊びに来てすぐに帰ることを「上京」とはいいません。ついでにいえば貨物列車という存在もなじみのないものであるのか、ゲームの中でまともに貨物列車を走らせないままコンテナ港にばかりこだわってしまうプレーヤーも多いようです。相応の年齢と経験の鉄道ファンであっても、貨物列車というものを趣味の被写体としか認識せず、鉄道写真として難易度が高いものやレアなもの(ほかの人より優位に立てるもの)としてしか貨物列車を見ない風潮があります。本物を観察するということは、鉄道写真を撮るという一面的な活動だけで達成できることではないのです。それでは何か非常に難しいかといえばそんなことはまったくなく、ふつうに社会科の学習や展示会などの見学ですぐにわかることなのです。単に機会がないだけとか、学ぼうとしない限り情報は入ってこないということに無頓着であるかといったことによって、知らないままになってしまうことが出てきてしまうのです。あるいは安価な貨物列車の模型しか買えなかった子どものときにいやというほど模型のコンテナを見ていたので、貨物列車というものに大人としての観察眼を向けようという動機が希薄になってしまうのかもしれません。よく晴れた日に鉄道を線路敷の外から見物するだけでなく、雨の日も雪の日も電車に乗らねばならず(電車に乗らねば多摩川も荒川も江戸川も越えることができず)、電車が遅れれば遅刻するという切迫感あってこそ鉄道に詳しくなるというものです。東京には、そのようにして不本意ながら鉄道に詳しくなってしまった人がたくさんいるはずです。東京の鉄道のことは、東京の人に聞いてみてください。いわばネイティブともいえる東京の人は、本作を自分の力ですでにのびのびと遊んでいて、いかなる「攻略情報」にもニーズを感じていないことと思います。だからこそ、本作に登場する車両のラインアップは東京が中心になっているのです。本作に地元の車両が登場しないといって憤慨する前に、そもそも本作がどのような人を対象にした作品であるのかを知る必要があります。
「A列車で行こう9」の中で、3DCGで描かれるだけの鉄道車両などのオブジェクトを鉄道『らしく』思わせるしかけは、これを走らせると乗客があって損益が発生するというダイナミックなシステムにあります。ゲームモードではなくマップコンストラクションモードで遊ぶにしても、乗客数や損益というゲーム内の表現は、つくったマップに生々しいリアリティを与えてくれるものです。これは鉄道模型にはない、ゲームならではの楽しみです。鉄道を題材にした遊びというものを鉄道模型だけを発想の起点にしてしまう(むやみに鉄道模型の発想を導入して解釈しようとする/鉄道模型にないものは無視する)のは感心できません。将棋には「地下鉄飛車」という囲い(戦法)があるといいます。
(このページの初版公開:2020年10月6日、「連絡設備費」の初出:2019年3月1日、『架空のJR線』の初出:2019年10月18日)
ARXあみてつ立体(67295)を見たと伝えるとスムーズです All Rights Reserved. ©2018-2024, tht.