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デフォルメとメタファー。A列車で行こう9の「時間拡張」と「スケール」をマスター。積極的に「30倍」を選ぶエキスパートでプロフェッショナルな理由とは。(最終更新:2024年4月24日)


A列車で行こう9・Exp.の時間拡張・スケールと進行速度

時間拡張スケール進行速度
時間の拡張(実時間比)2:1モード/1:1モードゲーム時間の速度
450倍・120倍・60倍・30倍・3倍建物の縮尺に対する線路の縮尺一時停止・0.5倍速・1倍速~300倍速
いわば「マップの時間スケール」いわば「マップの空間スケール」いわゆる「ゲームの早送り」

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※「時間拡張」と「スケール」はマップのデータの細かさを定義するもの(いわばフロッピーディスクの「フォーマット」)です。これらを「機能」や「モード」と呼ぶのは語弊があります。
※マップコンストラクションモードでは「時間拡張」を自由に変更できますが、マップに設定済みのダイヤ設定が自動的に追従してくれるわけではありません。マップの新規作成時に「時間拡張」をしっかり選んで決めたら、あとは変更しないようにしましょう。
※「時間拡張」は本作の用語(いわば固有名詞)ですから「A列車で行こうで時間を拡張するにはどうすればいいですか?」といった文にしてしまうのはいけません。用語を正確に扱うことが正確な理解への第1歩です。
※本作ではマップの「時間拡張」のことを「時間軸」「倍速」とは呼んでいません。「0.5倍速」「1倍速」から「300倍速」までと「一時停止」を選べる「ゲーム時間の速度(ゲームの進行速度)」いわゆる早送りとは異なります。『3倍速ダイヤ』と呼ぶのは誤りです
※列車や建物が非常に多いマップやCPUが遅いPC(ノートPCなど)では、「進行速度」を「300倍速」にしても、それより遅い「進行速度」にしかならない場合があります。
「時間による色彩変化」をオフにする設定もできます。列車を動かすための時計(ゲーム時間)は、ターン制のゲームでいうところの「ターン」のようなもの。ゲーム時間(時計)をどんどん進めても、情景は「朝」や「昼」や「夜」に固定して遊ぶことが可能です。
スタート画面の「マップコンストラクション」から「テンプレート1:1」を選んで開始すると「1:1モード」のマップを作成できるほか、P+Vキー押下により「2:1モード」のマップを「1:1モード」に変換することができます。(逆はできません。)
あろうことか、A9V3やA9V5でリストの1番目に出てくるニューゲーム(シナリオマップ)の「時間拡張」が「450倍」になっており、本作の第1印象を非常に悪くしています。(PS4版の「海上都市計画」も同様です。)

時間と空間の考え方

A列車で行こう9・Exp.の「祝日」

A列車で行こう9・Exp.の「駅のダイヤ設定」にある「運行予定」で「休日」を選択したときと「土曜」と「日曜」を複数選択したときで挙動が異なります。前者は「祝日」を含む動作となりますが後者は「祝日」を無視する動作となります。

A列車で行こう9・Exp.の「早送り」

A列車で行こう4からのファンが好んでやまないいわゆる早送りは「サイドメニューのタイマー」や「資金の減少で停止・決算前日の停止(12月31日)・決算直後の停止(1月1日)・イベントの直前で停止する」と組み合わせて使います。

A列車で行こう9・Exp.の「互換性」

これまでのA列車で行こう9のバージョンアップでは「整理」「統合」や「廃止」された機能などはいっさいありません。それでは「互換性」を重視しているのかというと、A9V5で作成した創作ゲームをA9V4以前では読み込めません。


ニューゲーム(シナリオマップ)の時間拡張・スケールについてはこちら

マップコンストラクションでのマップの広さについての考え方はこちら


時間拡張「30倍」で行こう

マップコンストラクションでは自由に変えることのできる「時間拡張」ですが、特別な事情がない限り「30倍」を選ぶべきです。シナリオマップ(ニューゲーム)も「30倍」に統一してほしいものです。

  1. ぼーっと眺めて日が暮れるまでの時間の長さを変えるのが「時間拡張」
  2. わたしたちの3連休はあっという間に終わる
  3. 「ぼーっと眺めた!」という満足感と「見ていて飽きないうちに夜が来て朝が来る」という小気味よさのトレードオフ

時間拡張「30倍」は、「A列車で行こう9」当初の実装(「A9V1」)の中では最もゆったりした時間の流れを持つ設定です。これが実は最もバランスがよいのです。逆にいえば、ゲームの映像表現の根幹をなす、音楽でいえばテンポにあたるものを、好きに選べと丸投げしていることにほかなりません。これは表現者としてあるまじき、とんでもなく無責任なことなのです。ゲームの作者の責任として、「時間拡張」を設定項目(プレーヤーが変えられる項目)にしてはいけなかった、自信をもって最初から「30倍」に統一すればよかったといえます。

※「12倍」や「3倍」などでは、駅の停車時間が問答無用で長くなってしまい、細かく調節することができなくなります。交差点の信号などもめちゃくちゃです。「60倍」では、ゲーム内の時計の分針が1秒ごとに進むため秒針と紛らわしく、分針だとわかっていても見た目で煩雑に感じてしまいます。分針が2秒ごとに進む「30倍」がおすすめです。そして、「夜が来て朝が来る」とは、もちろんゲームの中でのことです。徹夜注意

スケール「1:1」で行こう

マップコンストラクションでは変えることもできる「スケール」ですが、特別な事情がない限り「1:1」を選ぶべきです。シナリオマップ(ニューゲーム)も「1:1」に統一してほしいものです。

  1. 正方形のマップの1辺の長さに対して線路の長さを定義するのが「スケール」
  2. わたしたちの3連休はあっという間に終わる
  3. 「ぼーっと眺めた!」という満足感と「見ていて飽きないうちに終点に着いて折返す」という小気味よさのトレードオフ

スケール「1:1」は、「A9V2」で追加されたものです。このとき、従来のスケールは「2:1」と呼ばれることになりました。この呼び方がいけなかったのだと思いますが、「1:1」で止まらず、もっと線路を細かく引けるようにしてマップを広く感じさせる「1:2」「1:4」「1:8」「1:16」の実装も期待されるところです。「1:1」は、その呼び方とはうらはらに、何か究極のスケールということではまったくないのです。


何がどうしてこうなった?


  1. そうなんですか
  2. すごいですね
  3. もっと詳しく聞かせて下さい

2回の「建物キット」の発売を経て「A列車で行こう9」が「プロフェッショナル」という副題つきで「A9V2」にバージョンアップされたとき、スケール「1:1」モードが実装されました。このことは水平方向(平面)だけでなく高さ方向にも影響がありました。高架の線路や駅の高さを従来のスケール「2:1」モードでは「20m単位」でしか変えられませんでしたが、スケール「1:1」モードでは「10m単位」で変えることができるようになりました。これにあわせて「ハイトバー」の目盛りは「10m単位」で操作できるように変えられましたが、山の断面をカットして表示する「ハイトカット」の機能については「20m単位」のままにされました。しかし、線路の高さを「5m」や「2.5m」にしたいユーザーは多いことでしょう。

主に水平方向(平面)のことを考えてスケールを「2:1」から「1:1」にしたからといって、高さ方向のことも単純に半分にするしかないということはありません。開発陣としては「線路を高架にすれば、必ずその下に別の線路を通せる」という『わかりやすさ』を優先したのでしょうが、スケールを「2:1」から「1:1」にする目的(「もっとリアルにする」)に照らせば、せめて線路の高さの半分「5m単位」で高さを変えられるようにすべきだったと思われてなりません。勾配(傾斜のきつさ)が1種類しかない点も、このときが改良のチャンスでしたが、そのとき何もされなかったので、現在に至るまでそのままになっているのだろうと多くの人が思うことでしょう。

(車両の周囲に発生する空気の渦を植物が可視化してくれている)

勾配については「JR東海パック」で「高速線路」が実装されたときも見直しのチャンスでしたが、「高速線路」の勾配が実装されることはありませんでした。「プロジェクト」の「新幹線」の線路に「架線柱」がないのも、そのままにされました。昔のことをよく覚えているわたしたちは、「JR東海パック」の「高速線路」のようなものを見ると、「A列車で行こう4」の「新幹線」の線路に(たぶん)トンネルがあったのを思い出します。おそらく「JR東海パック」の「高速線路」を考えるときはスタッフも思わず童心に帰って無邪気に、およそ新幹線といえば思い浮かぶいろいろなものを口々に口にして、つまり、あまりにもたくさんの開発上の項目が上がってきてしまったのでしょう。PC版の「JR東海パック」に続くPS4版「A列車で行こうExp.」の発売時には、なんとレンガの「アーチ橋」を敷き詰めて「複線トンネル」に見せかけるというとんでもないスクリーンショットが。(※あまりにもあれなスクリーンショットだからか、プレイステーションの公式ブログでは省略されていますが。)「JR東海パック」から「A列車で行こうExp.」までの開発では「複線トンネル」の実装を検討していたのは確かでしょう。それまでのバージョンで既に「地下鉄駅(ドーム型)」が実装済みだったので、同様に2層分の高さを使う半径の大きな「複線トンネル」を実装することは可能でした。

※「A列車で行こう9」の「アーチ橋」は構造上「レンガ」のはずですが色がおかしく「レンガ」には見えないものになっています。これを敷き詰めれば「複線トンネル」に見えるだろうと考えてしまうのも、色を無視した態度だと思いました。

そのとき実装するものを「どれか1つ」に決めようとして決めることができず、あろうことか「ぜんぶなし」にしてしまったように見えます。そもそも「どれか1つ」で済む話ではありません。「プロジェクト」の「新幹線」の線路と「高速線路」は共通の実装にすべきで、そうすれば当然、「プロジェクト」の「新幹線」の線路にも「架線柱」がつき、いずれの線路でも勾配と複線トンネルができるようになっていたはずなのです。架線柱が1種類しかないのと勾配が1種類しかないのは、種類を選ばせるUIを思いつかなかったということが原因でしょう。現在まで「車両キット」と称して車両の種類はいくらでも増やせているのです。種類を増やすこと自体はできるのに、種類を選ばせるUIを思いつくことができないので種類を増やさないという本末転倒なことが、なぜか線路については起きているのです。

ちなみに「JR東海パック」の「高速線路」は公式マスターズガイドでは「複線電化区間」と紹介されています。もしかすると「複線トンネル」にも天井から架線を吊る表現をしようとしたのかもしれません。しかし、トンネル内で天井から架線を吊る部材は「架線柱」とは呼ばず(※「懸垂ガイシ(碍子)」もしくは単に「ガイシ」と呼ぶしかないらしい)、これを何と呼ぶのかがわからなかったというのが、実装を見送った最大の理由なのかもしれません。実装は可能でも呼びかたがわからなかったり難しかったりすれば、マニュアルなどの説明をうまく書くことができませんし、そもそもメーカーが企画書に書くことすらも難しい、だから企画に入ってこないとも言えます。そのものさえリアルに造形しさえすれば済む模型の世界との違いが実感されるでしょう。

あなたが「100km四方」や「15秒単位」「5秒単位」などの仕様を望むとき、それはどのようなスケールになるのか、ほかのスケールとは共存できそうか、下の表の中に位置づけて考えてみましょう。

スケールハイトバー公称広さ時間拡張停車時間加速
2:1
(A9V1)
20m単位10km四方30倍1分単位2.5秒
1:1
(A9V2)
10m単位
1:2
(未実装)
5m単位20km四方30秒単位5秒
1:4
(未実装)
2.5m単位40km四方15秒単位10秒
1:8
(未実装)
1.25m単位80km四方7.5秒単位20秒
1:10
(未実装)
1m単位100km四方6秒単位25秒
1:12
(未実装)
0.83m単位120km四方5秒単位30秒
1:16
(未実装)
0.625m単位160km四方3.75秒単位40秒

※忙しいひとのために超早口で言います! 地形データの分解能や設置可能なオブジェクト数などは据え置きで、線路・車両・建物だけを縮小して描画し、ハイトバーとダイヤ設定の時間の調節の目盛りを細かくして、時計に赤い秒針を追加し、時刻表示を秒までにする実装を思い浮かべてください。はい、できたも同然ですね。道路の交差点の信号は全自動(スケール・時間拡張に依存しない)にしちゃってください。はい、オッケーです。…忙しいひとのために超早口で言いました! ありがとうございました。

かねてより「10km四方」よりも広いマップを望む声は多いようですが、ウィキでは「無茶な要望」と断じられ続けています。メモリやグラフィックスの上限を先に考えるエンジニアの発想としては当然「無茶な要望」ということにはなりますが、マップを広く感じさせる実装にはいろいろな方向性がありえます。現在と同じ密度で建物などの3Dオブジェクトを配置できることを保証しながらマップの広さを100倍(※横に10倍×縦に10倍)にも拡張しようというのは「無茶な要望」です。しかし、配置できる3Dオブジェクトの数は現在と同じで、密度は下がってもよいとすれば、これは単純にオブジェクトや地形データの表示の縮尺を変えるだけということになるので「無茶な要望」ではなくなります。現に「A9V2」で実装されたスケール「1:1」モードは、この発想で実現されているものです。そのときは線路だけが縮小されましたが、ほかのオブジェクトも縮小してくれれば、それだけでマップは広くなるわけです。

グラフィックスの上限については、描画する範囲を調節することで対応できます。現在は「5km先まで」が描画されます。逆にいうと、マップの半分もの空間が描画されてしまうことが、マップを狭いと感じさせているともいえます。あえて描画する範囲を狭くして、空間を見るためにはたくさん移動しないといけないようにすれば、マップが広いと感じることでしょう。スクロールをたくさんしないと読めないウェブページは長いと感じるはずです。…このページのことですか。

メモリの上限については、オブジェクトなどの数(オブジェクトを配置する座標を記憶させる配列のサイズ)が問題になります。現在の「A列車で行こう9」では「樹木」1本1本が建物1つと同じように1つのオブジェクトとして厳密に管理されていますが、この実装のままではマップを広くするときに「樹木」の配置可能数を増やせないという問題に直面してしまいます。この解決策は、「樹木」の座標を厳密には管理しないようにすること。ペイント系のグラフィックソフトにある「スプレー(エアブラシ)」のツールと同様に、「樹木」のようなものは乱数で適当に配置すればよいのです。配置の中心座標と配置する広さ(半径)と密度だけを記憶して、「樹木」1本1本の座標など記憶しないようにしてしまえばよいのです。

※ペイント系のグラフィックソフトの「スプレー(エアブラシ)」は、昔は単純に乱数でビットマップに直接、そのような描画結果を描き加えてしまうものでしたが、現在は「アンドゥ」「リドゥ」の機能の中で、「スプレー(エアブラシ)」の操作だけを後から消したりできます。詳細な実装は承知していませんが、おそらく乱数のシードを管理していて、乱数を使ってはいるけれども、前回とまったく同じ乱数を再現できるようにしてあるのでしょう。

ゲームの中で列車の動きが速すぎると感じることも、マップが狭いという印象につながります。俯瞰したときには列車がきちんと小さく見えることや、車窓モードでは実車さながらのリアルな速度感が味わえることが求められています。現在までの「A列車で行こう9」は、机の上に拡げた鉄道模型を眺めるイメージで、俯瞰した視点でも列車の動きがよくわかるようにと、意図的に車両を大きめに(動きを速めに)してあるといいます(※「A9V1」初回盤に同梱の小冊子「ログイン」の漫画の中で社長氏がその旨を述べている)。これをしっかり遅くするだけでもマップを広いと感じることは可能で、このことは「A列車で行こう9」のバージョンアップを待たずにプレーヤーとしても工夫できそうな部分です。鉄道模型の世界でも、入門したての人や子どもほど、パワーパック(パワーユニット)のつまみをいきなり最大まで回して、車両を全速力で走らせてしまいます。そのような未熟さをいさめるときに言われるのが「スケールスピード」ですが、まさに「A列車で行こう9」でマップを広く感じるために必要なのは「スケールスピード」だといえるでしょう。


「A列車で行こう9」では、車両の加速にかかる時間が『2.5秒』(※列車タイプ「通勤型」の場合:この秒数は列車タイプごとに異なるだけで、巡航速度の違いにはよらず一定)に固定されています。これほどにも硬直的でずさんな実装しかされていない状態で「3倍ダイヤ」といって、どこがリアルなのでしょうか。与えられたものの中からどれがいちばんいいというのでなく、どうなっていればうれしいのかを自分で考えましょう。10両編成・3つドアの「211系」電車が動き出してからホームを抜けるまでに「26秒」かかり、その時点で電車の速度はまだ最高速度には達していません。10両編成・4つドアの「209系」電車はポイントの速度制限の60km/hまで加速しながらホームを出て行くのに「31秒」ほどかかっています。「211系」電車がホームを抜けたときの速度はいくらですか。


「時間拡張」と「スケール」は表裏一体のものです。どちらかだけを細かくしたらアンバランスなのです。マップを従来より広く感じさせる実装がなされないまま「時間拡張」だけが細かくなっても無意味だとおわかりいただけたはずです。

電車で2時間

多くのかたが直感的に思い浮かべる(このゲームに対して期待する)スケールは(現在の実装に即していえば)「1:4」くらいで、ハイトバーと停車時間の目盛りはもう少し細かく、「時間拡張」は「30倍」のままでよく、加速にかかる時間が現実並みに長めといったあたりではないでしょうか。わたしたちはゲームの映像に対して、じっくり眺めたいところでは実時間と同じ流れを期待しながら、ゲームの進行速度に対しては現実よりはるかに速い流れ(適度なデフォルメ)を期待するのです。

現実の電車では、ホームドア設置のためのTASCの導入、信頼性向上のための二重化を兼ねたM車の倍増で、これまでになく高い加速度および減速度での運転が始まっています。従来のまったりした電車に慣れた身にはスパルタンな揺れと衝撃ですが、これが現在のありのままの電車の加速度ということになります。

(阿佐ケ谷から高円寺まで1.2km=91秒)
(五反田から目黒まで1.2km=87秒)

「A列車で行こう9」でも、実際の路線で言えば阿佐ケ谷から高円寺や五反田から目黒のような駅間距離(1.2km)のつもりで設置した駅間を、実際に90秒ほどかけて走ってほしいと思うものでしょう。多少のデフォルメをするとしても、0.8倍や1.2倍、つまり「2割」が限度でしょう。現実には90秒かけて走る感じをゲームでは72秒に縮める、あるいは1.2kmある沿線の風景を省略して0.9kmに縮めるところまでは納得できても、それ以上に端折ってしまうと興ざめということがあると思います。そして、UIの設計でも意識される「ミラーの法則」に従えば、プレーヤーはマップの中で、7つ先の駅まで乗車する体験ができればとりあえず満足なのではないでしょうか。駅間が1.2kmで8つの駅がある8.4kmの路線をつくって「車窓モード」にしたとき、7つ先の駅までにかかる時間が現実より「2割」短いといった表現を求めていることにならないでしょうか。ちょうど新宿から西荻窪までが10.3kmです。「A列車で行こう9」のプレーヤーは新宿から西荻窪までのつもりの路線をマップにつくり、実際の所要時間は15分ですが12分、まさに「A列車で行こう9」の「車窓モード」を12分ほど楽しみたいということなのではなかったでしょうか。1つのマップの中で寝台特急や新幹線のルートを端から端まで再現して航空機や船と競争させたいなどといえば「無茶な要望」としか言いようがありませんが、わずか新宿から西荻窪までを再現したいだけというささやかな望みまで「無茶な要望」とは言われたくないものです。

※「ミラーの法則」そのものについて議論する立場にはない。UIの設計者も利用者も、そのようなUIに慣れているということが大きい。

現在の実装でも、速度計に表示される速度のスケールと、マップに建物を配置するスケールは別々になっています。あるスケールでの長さを現実の空間での距離感と対応づけるとき、それこそ直感的に、いわば名目的に決めてしまえばよいので、「1:4」というスケールのときに、それを「40km四方」とは呼ばず「100km四方」ということにしてしまっても、問題ないのです。「時間拡張」を「30倍」にして遊んでいると、現在でもマップは「90km四方」くらいの広さがあるように感じられる場合があります。このとき、わたしたちが「電車で2時間」といった言葉でとらえている生活上の距離感をゲームの中で感じているといえます。

※現在の「A列車で行こう9」で「1200m」の駅間距離は非常に短い時間で走破してしまう。速度を「15km/h」まで落としても46秒しかかからない。その一方、「時間拡張30倍」での名目的な所要時間としては92分ほどかかったということになってしまう。現実より30倍はやい時間の進みは(ダイヤを1/30に間引いて作成するだけでじゅうぶんに雰囲気が楽しめるという意味で)好ましいものとして受け入れたく、このとき画面上で所要時間を表示しない限り不自然さは出ない。あくまで「1200m」の駅間を「90km/h」のような速度計の表示のもと90秒ほどかけて走ってほしいということである。現在の実装のままで言えば「7.5km/h」くらいの速度で列車が動いていても速度計には「90km/h」と表示して違和感がないくらいにまでオブジェクトを縮小して表示してほしいということになる。

集中力は40分

(ガラスが緑色ではない)

かつて藤沢市内某所にあるキャンパスの建物の名前がギリシャ文字で消防署に叱られたという大学で行なわれた「語学の授業だけは50分にする」という取り組みが注目されたことがありました。授業時間の中に準備や予備、質疑などの時間をどのくらい取るかにより「45分」という提案もありますが、核になっているのは「集中力は40分」という仮説。人間の集中力は、どんなに鍛えても、大人でも子どもでも、楽しいことでも苦しいことでも、40分くらいが限界だという経験的な仮説があるといいます。どうして40分なのかはよくわからないけれど、だいたいそのくらいだという実感は誰しも持っていることでしょう。

2000年ごろ、BVEの「路線データ(.rw)」を自作して遊んでいた時期がありました。BVEでは「運転」の操作を行ないますから、かなりの集中力が必要です。これがまさに「40分」。自作の路線データなのだから習熟もしているし、いろいろな地点に何か思い入れがあったりして、「運転」しながらずっと楽しいにもかかわらず、いかんせん「40分」で、ぱたりと集中が途切れてしまうのです。

「A列車で行こう9」に求められる「マップの広さ」にも「集中力は40分」という限界があって、野放図にいくらでも広くしてほしいということではないといえます。「A列車で行こう9」の「車窓モード」が、仮にすべて直線の線路であっても「40分」じっくり楽しめることを要望する声が「マップを広くしてほしい」という言いかたで表出されてきているのだろうと理解すべきなのです。…たぶん。

デフォルメとメタファー

「A列車で行こう9」を楽しむ客の中には小学生や中学生も混ざっていて、そうしたプレーヤーたちは「デフォルメ」を毛嫌いして「もっとリアルに」という主張を声高にする傾向があります。大人が熟考の末に編み出した「デフォルメ」という表現が、じぶんたち子どもを子ども扱いしてばかにするものだと感じるわけです。「3倍ダイヤ」を追求するプレーヤーの目的は「自分が大人であるように見せること」以外の何物でもないでしょうが、果たしてその目的は「3倍ダイヤ」で達成できるものなのでしょうか。

「A列車で行こう9」の「時間拡張」と「スケール」について、どちらかといえば現在の実装より細かいものを考えていくという方向にあるわけですが、当然ながら現在よりも「デフォルメ」の度合いを大きくする方向というものもあります。

トーマスまさに「プラレール®」をそのまま遊べる「プラレールで行こう!」というPS2のソフトを「A列車で行こう9」と同じメーカーが過去に開発しています。続編が出ない理由はわかりませんが、よほど失礼なことや非常識なことをしたというのでない限り、「プラレール®」のメーカーとの関係はずっと続いていてよさそうなのに、そういうことにはなっていないのが謎です。そういえばワルシャワのオーケストラとの関係も1度きりのようす。せっかく築いた関係は大事にしてほしいですが、そもそも関係が築けたというレベルには達していなかったのであれば、それまでです。

幼児や小学生はともかく中学生くらいになると、「デフォルメ」は「リアルではない」という考えを抱きます。しかし、もう少し大人になってみると、かえって「デフォルメ」によって統制された映像表現は美しいと感じるようになってきます。現実のオブジェクトは、例えば大きさに着目しても対数的な違いがありますが、この違いを圧縮して、大きなものは適度に小さく、小さいものは適度に大きく描くことで、現実の見た目そのままよりも心情に沿った表現が可能になると考えることもできます(というか、それがそもそも「デフォルメ」という考え方です)。「デフォルメ」とは、見る者の心情を強調して描く技法だということもできます。「トイ・ストーリー」のような映像では、現実には大きさが違うものがだいたい同じ大きさに揃えて描かれ、現実にはしゃべらないものもしゃべり、お話が進んでいきます。しゃべるという表現のためには、同じ大きさで描くことが必要なのだとわかります。「トイ・ストーリー」の映像に登場するオブジェクトがすべて現実の通りの大きさで描かれていたら「リアル」でしょうか。

「デフォルメ」を突き詰めると、「メタファー」という考えに至ります。

オブジェクトがレーシングカーの形をしておらず「ビー玉」であっても、カーレースの興奮はいささかも色褪せるものではありません。もちろん、どう見ても「ビー玉」なのですが、これをカーレースだと思って興奮できるのはなぜでしょうか。コースやカメラワークが、これをカーレースだと思わせているのではないでしょうか。「A列車で行こう9」が追求していくべき映像表現も、このような方向にあるのではないでしょうか。「Transport Tycoon」には、ゲーム内のオブジェクトがお菓子やおもちゃになる「Toyland」というモードがありました。

入門セットをスルーしていきなり車両セットを買ってレンタルレイアウトにデビューしてしまい「リレーラー」を持っていない(単品で買おうとしても在庫がない!)中学生はともかく、(高校生を含め)大人であるわたしたちが「A列車で行こう9」を楽しむときに、実のところ何を楽しんでいるのかということを突き詰めると、例えば「E233系という車両」が走っているといった即物的なことは通り越して、「列車に40分くらい乗ったという心地よい疲労感」や「列車に乗って橋を渡ったりトンネルを抜けたりして車窓の風景が次々に変わるという爽快感」こそを楽しんでいるのではないでしょうか。これも突き詰めると、「橋を渡る」といってもオブジェクトが橋の形をしていることは必須ではなく、何か三角形の狭いところをくぐり抜けてゆくという映像であっても、それを「橋だ」と思わせるはたらきがあるということなのです。とにかく何か暗いところをくぐり抜けさえすれば「トンネルだ」と思うわけなのです。しかし、それを言い過ぎると「A列車で行こう9」ではなくなってしまいます。「デフォルメ」を通り越して「メタファー」に大きく振り切った映像表現は、Switch版などの作品に期待しておくことにしましょう。PC版のナンバリングタイトルとは明確に路線を異にする作品を展開したいなら、例えばそういうことをすべきだというのは誰しも思うところでしょう。

あくまで「A列車で行こう9」としての楽しみを得るために必要なのは「E233系という車両」を「リアルに」描くということばかりでなく(もちろんリアルでもあってほしいですけれど)、ゲームの中で40分くらいぼーっと眺めて楽しめることや、その間に飽きないような風景の変化を、できれば自動でつけてほしいといったことなのではないでしょうか。あえていえばたったそれだけの欲求に対して、「A列車で行こう9」というゲームの中では思い通りにならない「自動発展」に悩まされるか、あまりにも面倒な「マップコンストラクション」を強いられることになっています。もっと適当に、開くたびに異なる風景がランダムで出てくるくらいのことが望まれているだけなのかもしれません。

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