目的別の路線図の描き方

高橋書店の手帳の付録、交通広告の「駅等級」、広域の「乗り換え案内」、電車以外の交通機関や観光名所。1枚の路線図にJR線と私鉄をまとめて描く時のテクニックを学ぼう。(最終更新:2024年12月3日)


第三者の路線図

鉄道事業者でも行政でもない第三者が作成する路線図では、JR線と私鉄・地下鉄のどちらを強調することもなく中立的に描かれます。一方、多くの人にとって利用頻度の低い新幹線は細い線で描かれます。線や色に大きな差をつけなくてもJR線を明示できる方法として、地図記号の「駅(JR線)」(の体裁の線だけ)も、よく使われます。色については決まりがあるわけではなく、第三者としては安易に鉄道事業者のコーポレートカラーをそのまま使うわけにもいきません。在来線を黒、新幹線を何か適当な薄めの色で描くことが多いようです。

昭文社と高橋書店の違いは、印刷の大きさ(細かさ)。昭文社は大判のポスターで「カレンダー」になっています。高橋書店は手帳の見開きのサイズで、折りたたんで手帳に挟める「付録」になっています。

かつて書店で市販されていた昭文社の路線図は、壁に掲示して離れて見ても検索性が下がらないよう、太い線やくっきりした文字を使うなどのデザインになっていました。たくさんの路線を色分けするために薄い色も使われ、路線の色にかかわらず黒で縁取りされます。1つの路線に複数の運行系統があれば区別して明示され、乗り換え不要で直通する電車があるのかパッとわかります。路線はカラフルで見ていて楽しいものですが、直射日光のあたる場所ではあっという間に日焼けして退色してしまいます。だからこそ「カレンダー」として1年ごとに新しいものを買うようにされていたのでしょう。(※現在は大判のものは受注生産になっていて、必ずしも「カレンダー」にはなっていません。)

全国の書店のほか東急ハンズロフトでも取り扱いのある高橋書店の路線図は、手帳サイズという制約の中で可読性を最大限に確保しています。路線の色分けは地図の塗り分けと同じ考えで、隣り合う路線さえ区別できればじゅうぶん。薄い色は使わず、いくつかの路線が同じ色で描かれます。週末のお出かけを促すかのように「ケーブルカー・ロープウェイ」が特別な色の線で示されているのが目を引きます。デザイン上、JR線と私鉄・地下鉄の違いはあまり意識されません。なお、地下鉄だけを詳しく描く別図があり、大都市近郊の図では地下鉄は省略されます。手帳に挟むという用途から、繰り返しの折り曲げや摩擦に強い特別な紙が使われています。

夕日町計画・de・時刻表のピンクのページ説明
広域都市計画EX・de・時刻表のピンクのページ説明
架空の平賀支社と架空の国鉄岩瀬線・de・時刻表のピンクのページ説明

交通新聞社やJTBの時刻表には、運転時刻を調べたい路線の掲載ページを見つけるための索引地図があります。あまり探しやすいものではありませんので索引と言い切るのに抵抗があれば、地図の形をした目次だと思ってもよいでしょう。時刻表ではこのほかに、運賃(きっぷ)のルールを説明するページで、説明のために必要な範囲を大きくはっきり描いた路線図が何枚も出てきます。こうした路線図は黒1色で、文字や線などもいたってシンプル。ものによっては、ほぼ同じ図が企画乗車券券面にも、自動券売機での印字で出てきます。わたしたちが遊びで路線図をこさえるときには複雑さやカラフルさを競いたくなってしまいますが、自動券売機で印字できるほど明瞭なデザインというのも、ある意味では「目からウロコ」でしょう。

地域のJRの支社が内製(社員が手作り)したり地元の適当な印刷業者などに外注したりした図にはすごくだめなものが多いので参考にしてはいけません。例えば、路線網を線で示す(いわば「線」が『主役』である)路線図の中で「引き出し線」を使うのはNGです。駅名の縦組みも適切に使いましょう。(横組みのまま1字ずつ改行しただけでは縦組みではありません。)

学校で地理の教科書と併用される、いわゆる地図帳の最初のものを帝国書院が復刻しています。地図帳の中の主題図の1つとして「全国鉄道路線図」が掲載されていました。地図の中に鉄道の路線だけを描く図として元祖の部類に入ると思われます。交通新聞社やJTBの時刻表の索引地図は、これを踏襲しているのではないでしょうか。

交通広告の「駅等級」


駅等級説明

交通広告を扱う業者が描く路線図は、駅に広告を出したい広告主のためのもの。一般の路線図よりも大胆にデフォルメし、カバー率をとらえやすくしています。また、駅間距離が短めで駅の数が多い私鉄の図では、路線がとぐろを巻くように詰め込まれます。この表現で「この地域には駅がいっぱい」「駅は多いがここからここまでは1つのエリア」といった情報を視覚的に表わしています。広告主はこれを見て「反復訴求」や「POP効果」などの戦略を使い分けていくのです。

旧国鉄が駅構内の広告の料金を定めるときに、体系的な「駅等級」を使いました。実際の駅の状況は1つたりとも同じではありませんが、ある程度の幅を持つ「駅等級」にまとめたのです。「駅等級」は、乗降人員や優等列車の停車駅などと必ず一致するわけではありませんが、その路線での運行のありようをおおかた示唆するものになっています。

「駅等級」は絶対評価ではなく相対評価だという言い方もできます。ある鉄道会社やある地域、ある路線の中での相対的なランクを示すものですから、別の会社や地域の「駅等級」と比べることに意味はありません。ほかの路線に比べれば乗降人員が少ない路線にも「特級駅」はあるのです

ゲームでは、プレーヤーが設置した駅がどんな駅なのかは、プレーヤー自身が決めなければなりません。このとき、駅の種類や優等列車を停めるか停めないかといった個別のことより先に「駅等級」を定めるとよいでしょう。リアルなマップにしていくためには実際成り立ちなぞることが大切ですが、なぞる向きは逆向きでもよいのです。現実には路線網や都市の発達の結果として生じている「駅等級」の違いを、プレーヤーのあなたが先に決めてよいのです。

広域の「乗り換え案内」としての路線図

路線図は「乗車経路」すなわち「乗り換え」の案内が目的の図です。このことを「A列車で行こう9」というゲームに即していえば、このゲームならではの表現である「マップ外接続(隣町)」を印象的に(マップの作者の主観で)図示して、実際のマップよりも遠くまで広がる感じを演出するとよいでしょう。私鉄や地下鉄の路線図では、自社線がいかに便利であるかをアピールするため、実際にはかなり遠くの駅を近いと錯覚させるようなデフォルメもなされますが、「A列車で行こう9」のマップを紹介する目的の路線図では、逆に遠いと錯覚させるほうがよいわけです。

黎明期の私鉄には、沿線の名所を鳥瞰図で説明するものがありました。国鉄・JRでは、「名所案内」の看板が設置されている駅もあります。京急大師線は川崎大師(平間寺)、東武大師線は西新井大師(総持寺)の参詣者で大混雑する路線です。路線図の中に空港やフェリー、高速バスのターミナルをピクトグラムで示したものもあります。「乗り換え」ひいては自社線を越えて目的地までの移動を案内するという目的にはおおいに適うものです。ともすればJR東日本や東京メトロそれに東京都交通局の路線図のデッドコピーに突っ走る「路線図の描き方」という凝り固まった一面的な考えにとらわれず、真に目的に合致する図の表現を自分の責任のもとで追求しましょう。


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